【I&S インサイト】修理する権利の新たな展開についてー米国・欧州における新展開について

執筆者:小川 正太

 

はじめに

Right to Repair(修理する権利)に関しては、前回のインサイトにおいて、米国のFTC/連邦取引委員会における動向を中心に米国のRight to Repairの概念等を説明させていただきました。今回のインサイトでは、前回紙幅の関係上触れることのできなかった欧州における進展等について解説した上で、米国におけるRight to Repairの広がりとこれに対するメーカー側の対応の新局面について触れたいと思います。

 

修理する権利の欧州における進展

欧州では、2021年3月9日、家電メーカーに対して修理の受付けを義務付ける法律が制定・施行されており、これは家電メーカーに対して製品の修理を販売開始日から10年間義務付けるものとなっています。加えて、同法の施行後、新規に販売される家電製品については、修理マニュアルが付されることとなり、一般的な工具(当該商品のために特別に設計等された工具ではなく、一般的に入手可能な工具を指します。)で分解できるように製造されなければならないとされています。

 

また、英国では、2021年7月1日付で修理する権利に関する法律が制定されました。これは独立系修理業者が修理を行えるように製造・販売業者にスペアパーツの販売を義務づけるものですが、対象製品が少なく、特にスマートフォン等のハイテク製品が対象外となっている点で修理する権利を十分に補償できるものではないとの批判が起こっています。具体的にはその対象商品は、消費者向けの家電製品のうち、「食器洗い機」「洗濯機及び洗濯乾燥機」「冷蔵機器」「テレビおよびその他の電子ディスプレイ」の4商品のみとなっており、修理する権利の議論の大本命であるスマートフォン等のハイテク製品は対象とはなっていません。

 

このように修理の受付けを10年といった長期間義務付けることは、欧州の修理する権利の目的である「サステナビリティ」の観点から望ましいといえます。一方で、その修理の対象となった商品に関しては、商品寿命が伸びた結果としてモデルチェンジ後の新商品が購入されず、商品ライフサイクルも進まないために技術革新(Innovation)が進まないといった側面も一般論としては否定できないとの見解もあり得るところです。

なお、フランスで取り入れられた面白い試みとしては、2021年1月より、電子機器等に修理可能性指数、すなわち「修理しやすさ」を10段階のスコアで表示する仕組みが導入されています1

 

米国における様々な動き

 

3.1 Appleらスマートフォン・タブレットメーカーの動き

 

2022年4月27日、Appleは米国に所在する需要者向けに修理マニュアルを提供するとともに、「Apple Self Service Repair Online Store」で純正のApple製品のパーツ(ディスプレイ、バッテリー、カメラ等)を販売することを公表しました(https://support.apple.com/content/dam/edam/applecare/images/en_US/otherassets/programs/Expanding_Access_to_Service_and_Repairs.pdf)。既に認定独立修理業者(authorized independent repair providers)については純正品の使用を認めてきたところではありますが、当該事業者を利用しなくとも「自ら修理できる機会を消費者に与えた点で画期的であるとの評価が与えられています。ただ、依然として、Appleは多くの需要者にとっては、認定独立修理業者等に対して修理を依頼する方が望ましいとしています。また、一部の需要者にとっては、修理することが困難である事情は継続するものと思われるとのことです。

 

一方でMicrosoft社も、同社のタブレット商品である「Surface」の修理ツールをiFixitを通じて提供し始めるなど、近時、スマートフォン・タブレットについては修理をする権利がより実質的に保障されるような環境が整いつつあるともいえます。

 

3.2 ゲームをめぐる動き

 

修理する権利は、米国のゲーム業界でも注目を浴びています。すなわち、これまでゲーム機の修理は著作物への不法なアクセスに該当しうるため、Digital Millennium Copyright Act(デジタルミレニアム著作権法)違反になるとの立場をとっていましたが、米国著作権局(US Copyright Office)が修理する権利を認める新しい規則を採用しました。具体的には、新しい規則では「端末の制御や機能にコンピュータプログラムを含む合法的に取得された機器であり、著作物へのアクセスを目的としたものでなく、診断・保守・修理のために著作権を回避する必要がある場合」は修理する権利を認めるとしています(https://www.copyright.gov/1201/2021/)。ただし、これはゲーム機の光学ドライブ部分の修理に限られると解されており、それ以外の機構部分の修理等は引き続きDigital Millennium Copyright Act(デジタルミレニアム著作権法)の侵害に該当すると考えられます。

 

3.3 自動車:テレマティクス(移動体通信システム)

 

「テレマティクス」とは、テレコミュニケーションとインフォマティクスから作られた造語で、移動体に移動体通信システムを利用してサービスを提供することの総称をいいます。テレマティクスは自動車が運転される際の運行データを収集して、当該データを分析することで、交通事故の軽減、安全運転意識の向上、燃費の向上などが可能になるとされています。

 

もともと自動車の修理する権利に関しては、2012-2013年頃にマサチューセッツ州において、独立系修理事業者が車載式故障診断装置にアクセスすることを認めるか否かという文脈において問題とされていましたが、今般のテレマティクスが収集したデータへのアクセスの可否はこれの延長線上にあるとも評価できるように思われます。ただ、テレマティクスにおいて収集されるデータは多岐にわたるため、自動車の修理に必要ではない情報へのアクセスすることも認めるおそれがあり、自動車メーカー側は独立修理事業者又は消費者のテレマティクスへのアクセスを認めることに懐疑的です。

 

このような背景もあって、2021年一部の自動車メーカーの中にはテレマティクス機能を無効化したものを販売するといった動きに出るものも現れています。現在、自動車メーカーを巻き込んだ法廷闘争に発達しつつありますので、今後その動向にて注目する必要があります。

 

以上

 


 

  1. https://www.ecologie.gouv.fr/vers-plus-reparation-des-objets-du-quotidien-ministere-transition-ecologique-lance-campagne

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