【I&S インサイト】「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」が策定されました

執筆者:福島紘子

 

目次

 1.本ガイドラインの成り立ち

  (1)これまでの規制の概要

  (1)これまでの規制の問題点

 2.本ガイドラインの内容

  (1)概要

  (2)本ガイドラインの10類型

 3.さいごに:本ガイドライン策定により求められる対応

 

昨日3月30日、消費者庁より「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン以下「本ガイドライン」)が公表されました。食品添加物が不使用である旨の表示(以下「食品添加物の不使用表示」)に関する、初めてのまとまったガイドラインということで、注目されている食品関連業界の方々も多いと思われます。

 

本ガイドラインの意義は、一言で言えば、食品添加物の不使用表示について、消費者が合理的に商品選択を行えるよう、何が法的な表示禁止事項に該当するかを示す判断基準が明確化された点にあります。ここで「法的な判断基準」といいますのは、本ガイドラインが、食品表示法(平成25年法律第70号。以下「法」)4条1項に基づき定められた食品表示基準(平成27年内閣府令第10号。以下「本基準」)について、その解釈を消費者庁が示した「食品表示基準Q&A平成27年3月30日消食表第140号消費者庁食品表示企画課長通知。以下「本基準Q&A」。本ガイドライン制定等とあわせ一部改正がされました(13次改正)。の食品添加物の不使用表示に関する別添、つまり本基準Q&A該当部分の詳細として位置付けられていることを示します。

 

このことからも明らかなとおり、これまでも本基準と本基準Q&A関連箇所という法的な判断基準があり、本ガイドラインが策定されたからといってその大枠が変更されるわけではありません。そこで今回の記事では、これまでの規制を紹介しながら本ガイドラインの成り立ちを確認し、ガイドラインに注意すべき点として示されている10類型の概要について解説したいと思います。

 

1.本ガイドラインの成り立ち  

(1)これまでの規制の概要

 

法4条1項に基づく本基準9条1項では、消費者に誤認を与えるような食品表示を禁止するという趣旨の下、食品表示の禁止事項が定められています。中でも特に食品添加物の不使用表示に関わるのは1号、2号そして13号です。

第9条 食品関連事業者は、第3条、第4条、第6条及び第7条に掲げる表示事項に関して、次に掲げる事項を一般用加工食品の容器包装に表示してはならない。

1 実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語

2 第三条及び第四条の規定により表示すべき事項の内容と矛盾する用語

(中略)

13 その他内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示

 

食品添加物に関する表示(食品添加物の不使用表示も含みます)は、本基準3条で表示が義務付けられているため、本基準9条1項が適用され、本基準により表示すべきとされる事項と矛盾する用語や内容物を誤認させるような表示が禁止されています。そして本基準Q&Aと本ガイドラインは、どのような表示が本基準9条1項違反となるかを示していますので、本基準Q&Aや本ガイドラインに反した表示を行えば、本基準9条1項違反となります。

 

本基準9条1項、本基準Q&Aと本ガイドラインが適用される対象者や対象物、違反の場合に課される行政上の措置についてまとめると、次のようになります。

 

それでは、どのような食品添加物の不使用表示が本基準9条1項違反となるのでしょうか。

 

上で述べましたとおり、消費者庁は本基準の解釈のガイドラインである本基準Q&Aを既に策定しており、食品添加物の不使用表示についてもQ&Aで記載がされてきました。ただ、従前そのQ&Aは網羅的ではなく、本基準9条1項に関しても、主に本基準全般の解釈である「加工―90」と、本基準9条1項1号及び13号の解釈を示す「加工―281」(当時。以下同じ)を合わせて参照せざるを得ませんでした。本基準Q&Aの第13次改正が行われる前の条文を参照します。

 

(加工―90)「添加物は一切使用していません」、「無添加」などと表示をすることはできますか。

(答)

1 通常同種の製品が一般的に添加物が使用されているものであって、当該製品について添加物を使用していない場合に、添加物を使用していない旨の表示をしても差し支えないと考えます。なお、加工助剤やキャリーオーバー等で表示が不要であっても添加物を使用している場合には、添加物を使用していない旨の表示をすることはできません。また、「無添加」とだけ表示することは、何を加えていないかが不明確なので、具体的に表示することが望ましいと考えます。

2 さらに、同種の製品が一般的に添加物が使用されることがないものである場合、添加物を使用していない旨の表示をすることは適切ではありません。

 

(加工―281)表示禁止事項の「実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語」、「その他内容物を誤認させる文字、絵、写真、その他の表示」とは、どのようなものですか。

(答)

1 加工食品の表示禁止事項は、第3条、第4条、第6条及び第7条(名称、原材料、添加物等)に関連するものに限定されます。

2 具体的には、例えば、以下のものが該当します。

(中略)

・添加物を使用した加工食品に「無添加」と表示

 

(2)これまでの規制の問題点

しかし当時の「加工―90」「加工―281」の文言から一読して、どのような食品添加物の不使用表示が禁止され、どのような表示が許容されるのかを判断するのは、極めて難しかったといえます。例えば、「加工―90」には「通常同種の製品が一般的に添加物が使用されているものであって、当該製品に添加物を使用していない場合」とありますが、これがどのような場合なのか、判然としません。

 

そこで食品各業界は、独自に公正競争規約の中で食品添加物の不使用表示についての規定を定めてきました。一例を挙げますと、全国マヨネーズ・ドレッシング類協会は、「ドレッシング類の表示に関する公正競争規約」の施行規則3条5号で次のように定めています。

 

しかし、業界ごとに食品添加物の不使用表示のルールが異なるため、消費者にとっては何が適切な表示なのかわかりづらく、消費者庁が実施した「令和2年度食品表示に関する消費者意向調査」によれば、消費者の商品選択の場面で少なからず混乱が生じていました。

 

その一方で食品添加物の不使用表示の消費者への訴求力は高く、主に安全で健康に良さそうという理由で、6割以上の人が食品添加物の不使用表示を行っている商品を購入している、という結果が出ています(「令和2年度食品表示に関する消費者意向調査」Q64Q65)。

 

そこで、本基準9条1項の趣旨である消費者の誤認が生じないような表示が実現されるためには、従前の本基準Q&Aより明確で統一的な判断基準が必要であるという観点から、本ガイドラインが制定されることになりました。

 

2.本ガイドラインの内容

 

(1)概要

 

本ガイドラインは、各食品関連業者が食品添加物の不使用表示について自己点検できるよう、注意すべき表示を10類型にまとめた上で、本基準9条1項が禁じる誤認を生じさせるおそれのある表示について整理したものです。

 

消費者庁が昨年3月からの8回にわたる本ガイドライン検討会(以下「検討会」)で強調していたとおり、問題となる食品表示が最終的に本基準9条1項の表示禁止事項に該当するか否かは、各類型のうち、表示禁止事項に該当するおそれが高いと考えられる場合に当てはまることに加え、商品の性質、一般消費者の知識水準、取引の実態、表示の方法、表示の対象となる内容等を基に、ケースバイケースで総合考慮されることになります。つまり実際の本ガイドラインの運用は、①類型の禁止事項該当性の審査、②ケースバイケースでの総合考慮、の2ステップにより行われるため、類型の禁止事項に該当するおそれが高いため即違法という硬直的な判断がなされるわけではなさそうです。

 

ただ、10類型の禁止事項に該当するおそれが高い項目に該当するということは、2段階評価のうちの一段目をクリアすることを意味しますので、リスクベルとしては一段上がってしまいます。したがって、まずはこの10類型がどういう内容なのかをしっかりと理解し、できるだけ表示禁止事項に該当するおそれが低い状態にしておくことが重要であろうと思います。

 

(2)本ガイドラインの10類型

 

10類型の内容の全文は昨日発表された本ガイドラインをご覧頂くとして、以下では10類型を簡単に表にまとめてみました。類型番号の順番は本ガイドラインに倣ったもので、1から9までが表示の内容、10が表示の方法に着目しています。

 

また上述のとおり、類型の禁止事項にあたるおそれの項目に該当するからといって即違法と判断されるわけではないとされていますが、表示禁止事項にあたるおそれにも濃淡があるようです。中には、検討会で異議なく、本基準9条1項の表示禁止事項にあたるとされたもの、すなわち、それに該当すればほぼ違法とされるような、各企業にとって検討の優先度の高いと思われるものもあります(「優先度」に丸を付しました)。

 

 

類型は、必ずしも問題となる表示と一対一対応しない場合がある点に、注意が必要です。例えば、保存料の代わりに日持ち向上剤やpH調整剤を用いる場合は、類型4にも7にも該当し得ます。また、窒素やアルゴンを使用した食品で酸化防止剤不使用と記載することについては、加工助剤あるいはキャリーオーバーの定義1に該当する場合、類型4にも9にも該当し得ます。

 

以下では、本ガイドラインの記載に特に補足が必要と思われる、検討の優先度の高い類型(3、6)について付記します。

 

ア.類型3

 

この類型については、適法とされる余地がほぼないことは明らかであると思われます。本ガイドライン「類型3」に「例1」として示される事例によれば、清涼飲料水へのソルビン酸の使用は、厚生労働省の規定する「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号) 第2添加物 F.使用基準」違反であるにもかかわらず、清涼飲料水に「ソルビン酸不使用」と表示することで、ソルビン酸を含む食品添加物が使用された商品を望んでいない消費者は、当該清涼飲料水が不使用表示のない清涼飲料水よりも優れていると読み取るおそれがあり、優良または有利であると誤認させるおそれがあるためです。

 

同じく「例2」は「食品表示基準別表第5において名称の規定をもつ食品であり、特定の食品添加物を使用した場合に、同別表第3の定義から外れる当該食品添加物を無添加あるいは不使用と表示」したものと記載されています。これは例えばトマトケチャップに「無着色」と表示するような事例が該当します。すなわち、トマトケチャップという名称を有する食品(本基準3条「名称」2項、本基準別表5)は、同別表3によれば、たまねぎ・にんにく以外の農畜水産物と着色料を使用しないものを指すと定義づけられており、着色料はトマトケチャップの定義上使用することができない食品添加物であるといえます。

 

イ.類型6

 

食品添加物は、食品衛生法(昭和22年法律第233号)12条に基づき、厚生労働省がその安全性について食品安全委員会による評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限って、成分の規格や、使用の基準を定めた上で、使用を認めるものです。すなわち、少なくとも法律上は、安全ではなかったり、健康を損なうおそれのあるような食品添加物は存在しないと整理されています。したがって、法律上、食品関連業者が独自に健康・安全について科学的な検証を行い、それらの用語と関連付けることは困難であると考えられます。

 

加えて、1(2)で言及したとおり、健康と安全に良さそうからという理由で食品添加物の不使用表示がされた商品を選択する消費者は多く存在します。したがって、体に良いことの理由として、あるいは安全であることの理由として、食品添加物の不使用表示を行うことにより、実際のものより優良または有利であると消費者に誤認させるおそれがあり、また、内容物を誤認させるおそれがあるといえます。

 

 

3.さいごに:本ガイドライン策定により求められる対応

 

繰り返しとなりますが、消費者庁は本ガイドラインについて、従来とは異なる新たな規制ではなく、従来の規制を明確化したものとして位置付けています。とはいえ、本ガイドラインの対象となる食品関連業界の方々にとっては、既述のとおり、これまでは自主ルールで許容されてきた食品添加物の不使用表示が、食品表示法の法体系の中で明確にルール化されたことの意味は大きなものがあると思われます。

 

本ガイドラインには、ガイドラインとしては珍しく猶予期間が設けられており、2年程度(令和6年3月末)の間に適宜表示の見直しを行うことが求められています。その間に、本基準違法と判断され、法上の不利益な行政措置を受けないために、食品添加物に関する表示を注意深く見直していくことが求められているといえます。さらに、上述のとおり、本ガイドラインが容器包装の規制にとどまらず、広告規制の一つの指針になりうると消費者庁も明言していることから、広告まで含めた表示物全体について、本ガイドラインに沿って対策を講じることが必要であると考えます。

 

 

以上


 

  1. 本基準3項「添加物」1項中、次のように定義されています。

    「二 加工助剤(食品の加工の際に添加されるものであって、当該食品の完成前に除去されるもの、当該食品の原材料に起因してその食品中に通常含まれる成分と同じ成分に変えられ、かつ、その成分の量を明らかに増加させるものではないもの又は当該食品中に含まれる量が少なく、かつ、その成分による影響を当該食品に及ぼさないものをいう。以下同じ。)

    三 キャリーオーバー(食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されないものであって、当該食品中には当該添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないものをいう。以下同じ。)」

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