【I&S インサイト】企業結合審査における問題解消措置と履行遵守のモニタリング ~日本版Monitoring Trustee(監視受託者)の活用の可能性~
DATE 2022.03.01
執筆者:細川日色
目次
第2 問題解消措置の実効性確保手段としてのモニタリングの重要性
第3 問題解消措置の実効性確保手段としてのモニタリング・トラスティ
第4 最後に(我が国におけるMonitoring Trustee活用の可能性)
第1 はじめに1
企業結合審査において、当局から独禁法上の問題を指摘された場合であっても、当事会社がかかる問題を解消する措置(「問題解消措置」)を講じることを条件に、企業結合についてクリアランス2 を得ることができる場合があります3。
問題解消措置には、大まかに構造的問題解消措置(structural remedies)と行動的問題解消措置(conduct/behavioural remedies)があるところ、公取委の企業結合ガイドライン 4では、前者が原則であり、後者は例外と位置づけられています。構造的な措置が望ましいとされる主な理由は、措置の実行について当局が継続的な「監視」を行う必要がない点と考えられます。
この点、欧州においては、(構造的措置か行動的措置かを問わず)当事会社による問題解消措置の履行を監視する独立した第三者(以下、「モニタリング・トラスティ(Monitoring Trustee)」あるいは「監視受託者」といいます。)の選任等5 により、措置の実効性が担保されているところ、我が国における近時の企業結合事例においても、監視受託者の選任を条件の一つとしてクリアランスを得ているケースが散見されます。
本稿では、企業の皆様における問題解消措置の設計・当局との交渉の一助となるべく、構造的問題解消措置が「原則」とされている理由に立ち返りつつ、問題解消措置の実効性確保手段としてのモニタリングの重要性を検討した上で(以下、第2)、欧州におけるモニタリング・トラスティの概要を紹介するとともに、我が国における近時の企業結合審査の動向を概観いたします(以下、第3)。
第2 問題解消措置の実効性確保手段としてのモニタリングの重要性
1 構造的/行動的問題解消措置の意義
構造的措置と行動的措置の具体的な範囲・外延については様々な見解があり、企業結合ガイドライン上も定義等はありませんが、一つの整理の仕方として、以下のような分類があり得ます6。
(1)構造的問題解消措置
① 事業譲渡、議決権処分・株式保有比率引下げ等
② 競争者強化のための諸措置(長期供給契約等)
③ 新規参入・輸入促進のための措置等
(2)行動的問題解消措置
① 事業活動実施上の独立性維持、情報遮断措置等
② 差別的取り扱い禁止による閉鎖性・排他性問題の防止
③ 市場支配力不行使の確約
2 なぜ構造的問題解消措置が原則なのか
企業結合ガイドラインは、以下のとおり(措置の適切性は個別事案ごとに検討されることを前置きしつつも)前記2つの内、構造的な措置が原則であるとしています7 。
一般論として事業譲渡等の構造的問題解消措置が望ましいとする記述は、欧州・米国
問題解消措置としてどのような措置が適切かは、個々の企業結合に応じて、個別具体的に検討されるべきものであるが、問題解消措置は、事業譲渡等構造的な措置が原則であり、当事会社グループが価格等をある程度自由に左右することができないように、企業結合によって失われる競争を回復することができるものであることが基本となる。ただし、技術革新等により市場構造の変動が激しい市場においては、一定の行動に関する措置を採ることが妥当な場合も考えられる。
の競争当局のガイドライン等でも同様に見られます8。
構造的措置が原則とされる主な理由は、事業譲渡などは一回的に市場構造を変えてしまうものであり継続的監視が不要である一方、行動的措置は継続的に行われるものであって継続的監視が必要となる点にあると考えられます 910 11。
3 問題解消措置の履行遵守についてのモニタリングの重要性
継続的監視が不要であることを主な理由として構造的措置を原則、すなわち望ましい措置としている点から、当局が、問題解消措置の適切性の評価において、当該措置が実施されれば競争上の懸念が解消されるかのみならず、そもそも当該措置が申出のとおり実施されるか(当局がそれを監視できるか)も重要な考慮要素としていることが窺えます。
このように問題解消措置の評価において「監視」を重視する姿勢は、実際の企業結合審査にも現れています。すなわち、垂直型企業結合において川下市場の競争者に対する供給差別(投入物閉鎖)の懸念があった近時のケース12 では、当事会社がかかる差別取扱いの禁止等の措置を申し出たのに対し、公取委は、問題解消措置の遵守状況を監視することが困難なことを理由の筆頭に挙げた上で、当事会社から申出のあった問題解消措置では競争への影響を解消できないとの判断をしています(最終的には当事会社の計画撤回により審査終了)。
かかる当局の姿勢・判断に照らすと、当事会社としては、問題解消措置の設計、また当局に対する申出及びその後の交渉に当たり、当該措置が当局の指摘する競争上の懸念に対処するものであることだけでなく、当該措置が企業結合後も継続して行われる場合には、そのモニタリング等による実効性確保についても何らかの手立てを講じる必要性が高まっているものと考えられます。
なお、モニタリングが重要となるのは、必ずしも行動的問題解消措置の場合に限りません。前記のとおり構造的措置・行動的措置の外延は必ずしも明確ではなく、代表的な構造的措置とされる事業譲渡についても、企業結合後に措置が講じられる場合には、完了までの対象事業の価値毀損の防止や、適切な譲渡先の選定などについて当局が実効性に懸念を示すことがあり得ます 。13
第3 問題解消措置の実効性確保手段としてのモニタリング・トラスティ
1 欧州におけるモニタリング・トラスティの概要
欧州委員会のいわゆる問題解消措置告示 14 では、問題解消措置の実効性を確保するための制度の一つとして、トラスティ制度が設けられています。本稿では、その中からモニタリング・トラスティの概要を紹介します。
① 選任
当事会社は、特に中間期(欧州委員会の決定から事業分離措置(divestiture)が完了するまでの間15 )や分割プロセスにおける措置の遵守を監督するMonitoring Trusteeの選任を提案し、欧州委員会がこれを任命します 16 。
Monitoring Trusteeは、適切かつ適時の措置実施のため不可欠であることから、ほぼ全ての事例で任命されるとされています。このように、欧州において問題解消措置の監視等がトラスティに委ねられているのは、欧州委員会が、一般的な方針として、監督プロセスへの直接的かつ積極的な関与を避けているためとされています17。
トラスティが欧州委員会のために当事会社の措置遵守の監視を適切に行う上で、その独立性が極めて重要とされています。特に、欧州委員会は、当事会社の監査役や投資顧問を兼任している人物・機関については、原則としてトラスティとして承認しないとしています。ある人物等がトラスティの要件を満たすかについては、当事会社が、欧州委員会に対し、十分な情報を提供する責任を負っています 18。
② Monitoring Trusteeと欧州委員会との関係
Monitoring Trusteeは、欧州委員会の監督の下で業務を遂行します。欧州委員会は、措置の遵守を確保するため、Monitoring Trusteeに対してあらゆる命令・指示を行うことができ、Monitoring Trusteeは、任務遂行に必要と考えられるあらゆる措置を当事会社に提案できます19 。
③ 事業分離措置(divestiture)におけるMonitoring Trusteeの任務
Monitoring Trusteeの任務・義務は、当事会社とトラスティとの間で締結されるTrustee Mandate20 に詳細に定められます。Monitoring Trusteeの任務は、通常、欧州委員会の決定が採択された直後から、承認された買主に対し事業が分離されるまで継続されます。主な業務としては、分割対象事業と当事会社に保持される事業との間の資産分割や人員配置等の監視・購入候補者や売却方法が問題解消措置の内容に合致しているかの検討や、委員会への意見提出等が挙げられます21 。
④ 事業分離措置以外の措置におけるMonitoring Trusteeの任務
事業分離措置以外の措置は、長期間を要し、複雑であることが多いため、欧州委員会がかかる措置を効果的に実施されると結論づけるためには、多くの場合、非常に高度な監視努力と明確な監視手段が求められます。そのため、欧州委員会は、問題解消措置の実施を監視するTrusteeの関与等を求めることが多いとされています22 。
2 我が国における近時の企業結合事例
公取委が公表する企業結合事例集 23の直近5年度分(平成28年度~令和2年度)の内、問題解消措置の遵守状況の「監視」に言及したケースを末尾【別表】にまとめました。
これらのケースからは、第一に、近時の公取委における企業結合審査において、問題解消措置の遵守状況の監視が、措置の適切性、引いては競争上の懸念が解消されるか否かを判断する上で、考慮要素の一つとなっていると言えます。
第二に、これらのケースの中には、「独立した第三者(監視受託者)」の選任を条件の一つとして、クリアランスが出ているケースも散見されます。欧州を初めとする複数の法域が問題となる国際的企業結合事案を通じて、海外の実務運用が、我が国の企業結合実務にも一定の影響を及ぼしていることが窺えます。
第三に、我が国の事例においては、第三者によるモニタリングまでは条件とせず、当事会社による定期報告をもって履行監視の担保手段として認めるケースも相当数あることが見て取れます。このような定期報告は、欧州におけるMonitoring Trustee活用との対比でみると、当局自身が直接的・積極的に監視プロセスに関与することが前提となっているものと考えられます。しかしながら、人的リソースや人事異動の状況に鑑みると、当局自らが、当事会社の報告をもとに数年以上の継続的監視を実効的に行い得るかについては、若干の疑問があるようにも思われます。前記のとおり、欧州では独立した第三者による監視が一般的であるところ、競争法ルール・執行の国際的ハーモナイゼーションの進展の中で、我が国における定期報告スキームがこれからも許容されていくかについては、今後の審査実務を注視する必要があるように思われます。
第4 最後に(我が国におけるMonitoring Trustee活用の可能性)
最後に、本稿で概観した問題解消措置の事後モニタリングの重要性及び国内外の実務動向を踏まえて、今後の我が国の企業結合審査におけるMonitoring Trustee活用について検討したいと思います。
問題解消措置の継続的な履行遵守を担保する必要があることは議論の余地がないとして、具体的に誰が「監視」の役割を担うべきかが問題となります。この点、前記第3の2のとおり、一般的に当局がこれを行うことには一定の限界があることにも照らすと、我が国においても、欧州のMonitoring Trusteeのように独立した第三者が履行監視を行うとの制度設計が、実効性確保の観点から望ましいと考えられます。履行監視に当たっては、事業譲渡における譲渡先選定を例に挙げると、譲渡先候補者が一定の取引分野において有力な競争事業者であって当該事業を維持・発展させるインセンティブがあるか、当該事業の取得によって競争上の懸念が生じないか等を判断する必要があります。そのため、モニタリングを担う第三者の重要な資質の一つとして、高度な競争法上の知見・実務経験が求められるように思われます。
現在の我が国実務においては、独立した監視受託者の活用は一部の国際事案にとどまっているものの、海外における企業結合審査の厳格化 24の流れも踏まえて、国内事案についても、公取委審査をスムーズに進めるための安全策ないし戦略の一つとして、当事会社による積極的な活用が検討されるべきように思われます。
【別表:直近5年度分(平成28年度~令和2年度)の企業結合事例の内、問題解消措置の遵守状況の「監視」に言及のあった事例】
No. | 年度 | 番号 | 案件名 | 問題解消措置の概要 | 問題解消措置に対する評価 |
1 | H28 | 2 | ダウグループとデュポングループの統合 | ◇ 事業譲渡等 ◇ 「本件措置の完了までの間、ダウグループが行う他の事業から譲渡対象事業を切り離し、販売に適した事業として管理されることを確保する独立した第三者(監視受託者)(脚注1「監視受託者は、当事会社の本件措置の条件及び義務の遵守を監視する義務を負う。」)を補助し、当該事業の経済的な成長可能性、市場価値及び競争力を維持する。」 |
「本件措置を講じることを前提とすれば、本件行為後の酸性コポリマー市場における当事会社の合算市場シェアは本件行為前から増加しない。また、譲渡先については、前記1(2)の要件を満たしていれば、酸性コポリマー市場における独立した競争者となると考えられるところ、譲渡先が当該要件を満たしているかについては、当事会社から報告を受けた後、欧州委員会等において判断することとされており、事前に譲渡先の適格性を判断する機会が確保されている。」 |
2 | H28 | 5 | 新日鐵住金㈱による日新製鋼㈱の株式取得 | ◇ 特許・ノウハウのライセンス等(新規参入の促進) ◇ 情報遮断措置 ◇ 問題解消措置の実施状況について公取委に定期報告 |
「問題解消措置の実施状況について、当委員会への定期報告を行うことについても、問題解消措置の履行監視の観点から適切であると考えられる。」 |
3 | H28 | 8 | ラム・リサーチ・コーポレーションとケーエルエー・テンコール・コーポレーションの統合 | ◇ 差別的取扱い等の禁止(一定期間、川下市場の競争者に対し、川上市場の商品の使用機会の提供) ◇ 報告・監視に関する措置は記載なし |
「公正取引委員会は、本件においては、問題解消措置の遵守状況を監視することが困難なこと、投入物閉鎖により競争が一旦失われた場合の回復が困難なこと、一定の期間の経過により問題が解消される事情が認められなかったこと等に鑑みて、当事会社から申出のあった問題解消措置の内容では本件行為の競争への影響を解消することはできないとの結論に至った。」 (当事会社の計画撤回により、審査中止) |
4 | H29 | 2 | 日立金属㈱による㈱三徳の株式取得 | ◇ 取引継続に係る措置(投入物閉鎖・顧客閉鎖の解消) ◇ 情報遮断措置 ◇定期報告(措置の遵守状況について、原則として5年間、1年に1度、公取委に報告) |
「履行監視の観点から、定期報告は有効な措置であると認められる。」 |
5 | H29 | 3 | クアルコム・リバー・ホールディングス・ビーブイによるエヌエックスピー・セミコンダクターズ・エヌブイの株式取得 | ◇ 接続性の維持等(市場閉鎖性・排他性の解消) ◇ 「本件行為後8年間、クアルコムは当委員会に対し、最初の5年間は四半期毎に1回、それ以降は半年毎に1回、独立した第三者(監視受託者)が監視する本件問題解消措置の遵守状況を報告する。」 ◇ 「本件行為後8年間、当委員会は、当事会社に対し、本件問題解消措置の効果的な履行を監視するために合理的に必要と認められる全ての情報を要請することができる。 |
「履行監視の観点から、定期報告は有効な措置であると認められる。」 |
6 | H29 | 4 | ブロードコム・リミテッドとブロケード・コミュニケーションズ・システムズ・インクの統合 | ◇ 接続性の確保・差別禁止(市場閉鎖性・排他性の解消) ◇ 情報遮断措置等 ◇「当事会社グループは、公正取引委員会の承認が得られた日から10年間にわたり、公正取引委員会に対して、2年に1度、独立した第三者(監視受託者)が監視する前記…の遵守状況を報告する。」 |
「FCSANスイッチ及びFCHBAについては、次世代製品の開発サイクルが少なくとも2年以上必要であること、一度上市された製品について当事会社グループが事後的に接続性を低下させることは容易ではないことから、2年に一度の定期報告は履行監視の観点から、有効な措置であると認められる。」 |
7 | H30 | 4 | 新日鐵住金㈱による山陽特殊製鋼㈱の株式取得 | ◇ 設備等の譲渡 ◇情報遮断 ◇ 定期報告(本件問題解消措置の実施状況に関する年1回の定期報告を、本件実行日から原則として5年間にわたり行う。また、当委員会からの求めに応じて、必要な報告等を行う) |
「本件問題解消措置の実施状況について、当委員会への定期報告その他必要な報告を行うことは、本件問題解消措置の履行監視の観点から適切であると認められる」 |
8 | H30 | 6 | ジェイエックス・メタルズ・ドイチェラント・ゲーエムベーハーによるエイチ・シー・スタルク・タンタラム・アンド・ニオビウム・ゲーエムベーハーの株式取得 | ◇ 取引継続(投入物閉鎖による川下市場の閉鎖性・排他性の問題に対する解消措置) ◇ 定期報告(取引相手方=川下市場の供給者との取引内容について、本件行為の実行から令和5年末まで、年1回、公正取引委員会に対して報告) |
「履行監視の観点から、定期報告は有効な措置であると認められる」ことも踏まえ、「本件問題解消措置により、市場の閉鎖性・排他性の問題は生じない」とした。 |
9 | H30 | 10 | ㈱ふくおかフィナンシャルグループによる㈱十八銀行の株式取得 | ◇ 債権譲渡 ◇ 金利等のモニタリング(本件統合後に「不当な金利の引き上げ」等が生じないよう、事後的なモニタリング(「本件モニタリング」)を行うとともに、本件モニタリングの実施状況については、「当事会社グループ内部の委員会及び第三者委員会を設置するなどガバナンス態勢を整備してその監視を受けるとともに、金融当局が検査・監督において確認する」) ◇ 定期報告(本件債権譲渡及び本件モニタリングの実施状況について、公取委に対し定期的に報告) |
「本件債権譲渡は遅くとも本件統合後1年以内に完了する予定であるが、本件モニタリングは、本件債権譲渡が完了するまでの間、当事会社グループが市場支配力を行使することを防止するための措置として実効性が認められることから、適切な措置であると認められる。」 定期報告については、「問題解消措置の確実な履行を担保する観点から適切な措置であると認められる」 |
10 |
R1 | 2 | TDK㈱による昭和電工㈱のネオジム磁石合金の研究開発事業の譲受け | ◇ 情報遮断措置 ◇ 定期報告(前記措置の遵守状況について、本件行為実行日から原則として5年間、1年に1度、公正取引委員会に対して報告) |
「履行監視の観点から、定期報告は有効な措置であると認められる。 以上のことから、本件問題解消措置により、市場の閉鎖性・排他性の問題は生じないと認められる。」 |
11 |
R2 | 3 | DIC㈱によるBASFカラー&エフェクトジャパン㈱の株式取得 | ◇ 事業譲渡による独立した競争事業者の創出 ◇ 本件措置の完了までの間、DICグループが行う他の事業から本件譲渡対象事業を切り離し、販売に適した事業として管理されることを確保する。また、これらの点の実効性について、独立した第三者(監視受託者25 )が監視 ◇ 本件行為から6か月以内に譲渡契約締結に至らなかった場合、独立した第三者(事業処分受託者)が公取委の同意を得た上で指定した譲渡先に対し、本件譲渡対象事業を譲渡 |
「事業譲渡の実効性及び譲渡までの競争力等の確保のために、第三者(監視受託者)を関与させるとして」いる点等も踏まえ、「問題解消措置の実行期限は適切かつ明確に定められている」とし、結論として本件問題解消措置は適切なものと評価 |
12 | R2 | 4 | 富士フイルム㈱による㈱日立製作所の画像診断事業及びヘルスケアIT事業の統合 | ◇ 差別的取扱い等の禁止 ◇ 情報遮断措置 ◇ 定期報告(前記各措置の遵守状況について、本件行為日から3年間、1年に1度、公取委に報告) |
「履行監視の観点から、…定期報告は有効な措置であると認められる」とし、結論として、本件問題解消措置により、当該市場における市場閉鎖性・排他性の問題は生じないとした |
13 | R2 | 6 | グーグル・エルエルシー及びフィットビット・インクの統合 | ◇ 差別的取扱い等の禁止 ◇データ利用の制限 ◇ 定期報告(本件行為実行日から10年間、公取委に対し、半年に一度、独立した第三者(監視受託者)が、前記各措置の遵守状況を監視した結果を報告する) |
「本件問題解消措置の履行監視の観点から適切な措置であると認められる」とした上で、「当事会社グループが本件問題解消措置」(作成者注:公取委に対する定期報告に係る申出も含む)を講ずることを前提とすれば、本件行為が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した」 |
14 | R2 | 10 | Zホールディングス㈱及びLINE㈱の経営統合 | ◇定期報告及び必要な措置の検討(本件行為後3年間、1年に1回、市場における競争状況等、データ利活用に関する事項等を報告。報告内容に対し、公取委が市場における競争の実質的制限等のおそれに関する指摘をした場合、公取委との協議・対応策の検討を行う。) ◇ 排他的な取引条件の撤廃(かかる措置の実施状況に関する報告も含む) |
「定期報告は、それ自体が企業結合によって失われる競争を回復することができる措置とは評価できないが、当委員会が統合後における当事会社グループの行動や今後の市場の状況を把握するという観点からは適切な措置と考えられる。」 排他的な取引条件の撤廃に係る措置の「実施状況について、当委員会への定期報告を行うことは、本件措置の履行監視の観点から適切であると認められる。」 |
以上
- 引用箇所における下線・強調は、いずれも本稿筆者によるものです。
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則第9条
- 問題解消措置については、2020年7月8日付け・「【I&Sインサイト】欧州における企業結合の問題解消措置免除事例-武田薬品によるShire買収-」(https://www.ikedasomeya.com/insight/7270)もご参照ください。
- 「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/guideline/guideline/shishin.html)
- 本稿で紹介するMonitoring Trusteeのほか、問題解消措置の実効性確保手段としては、所定の期限内に譲渡を実行できなかった場合に当事会社に代わって対象事業の譲渡を実施するDivestiture Trustee(事業処分受託者)もありますが、本稿では割愛いたします。
- 川濵昇・泉水文雄・武田邦宣・宮井雅明・和久井理子・池田千鶴・林秀弥著「企業結合ガイドラインの解説と分析」(商事法務、2008年)244~259頁
- 公取委ガイドライン・第7の1。
- 【EC】”Commission notice on remedies acceptable under Council Regulation (EC) No 139/2004 and under Commission Regulation (EC) No 802/2004”(https://ec.europa.eu/competition/mergers/legislation/files_remedies/remedies_notice_en.pdf)15段落/【DOJ反トラスト局】2020年9月”MERGER REMEDIES MANUAL”(https://www.justice.gov/atr/page/file/1312416/download)III.B (Structural Relief Is the Appropriate Remedy for Both Horizontal and Vertical Mergers)・13頁以下/【FTC】2012年11月”Negotiating Merger Remedies”(https://www.ftc.gov/system/files/attachments/negotiating-merger-remedies/merger-remediesstmt.pdf)5頁
- 白石忠志「独占禁止法(第3版)」(有斐閣、平成28(2016)年)539頁。同書は、このことから「構造的措置と行動的措置という2分類を論ずるより、一回的措置か継続的措置かという2分類を論ずるほうが直截かつ有益であろう」と指摘しています。
- 深町正徳(前公正取引委員会経済取引局企業結合課長)編著「企業結合ガイドライン(第2版)」(商事法務、2021年)339頁にも、同旨の解説があります。
- 欧州の問題解消措置告示(本稿第3の1で定義)15段落も、以下のとおり、事業譲渡等の構造的措置は、中長期的な監視措置を必要としないため、望ましいとしています。”According to the case law of the Court, the basic aim of commitments is to ensure competitive market structures. Accordingly, commitments which are structural in nature, such as the commitment to sell a business unit, are, as a rule, preferable from the point of view of the Merger Regulation's objective, inasmuch as such commitments prevent, durably, the competition concerns which would be raised by the merger as notified, and do not, moreover, require medium or long-term monitoring measures.”
- 後記別表No. 3(平成28年度事例8:ラム・リサーチ・コーポレーションとケーエルエー・テンコール・コーポレーションの統合)
- かかる場合に監視受託者を置くことを前提としてクリアランスが出ているケースとして、後記別表No.1(平成28年度事例2:ダウグループとデュポングループの統合)参照
- 「Commission notice on remedies acceptable under Council Regulation (EC) No 139/2004 and under Commission Regulation (EC) No 802/2004」(https://ec.europa.eu/competition/mergers/legislation/files_remedies/remedies_notice_en.pdf)
- 問題解消告示・36段落
- 問題解消告示・117、123-126段落
- 以上、公正取引委員会競争政策研究センター「諸外国の企業結合規制における行動的問題解消措置に関する研究」(https://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index_files/cr-0414.pdf)39頁
- 問題解消告示・125段落
- 問題解消告示・118段落
- 欧州委員会は、Trustee Mandateのモデル条項を公表しています(https://ec.europa.eu/competition/mergers/legislation/trustee_mandate_en.pdf)。
- 問題解消告示・119段落
- 問題解消告示・129、130段落
- 公取委ウェブサイト「主要な企業結合事例」(https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/jirei/index.html)
- 米国司法省反トラスト局長Jonathan Kanter氏は、2022年1月24日のスピーチにおいて、個人の見解として、ある企業結合が競争を制限するおそれがある場合には、当該企業結合の単純な差止めを求めるべきと発言しています。”I am concerned that merger remedies short of blocking a transaction too often miss the mark. Complex settlements, whether behavioral or structural, suffer from significant deficiencies. Therefore, in my view, when the division concludes that a merger is likely to lessen competition, in most situations we should seek a simple injunction to block the transaction. It is the surest way to preserve competition.”(https://www.justice.gov/opa/speech/assistant-attorney-general-jonathan-kanter-antitrust-division-delivers-remarks-new-york)
- 「当事会社グループから独立した第三者として、事業譲渡が行われるまでの間、当事会社グループが譲渡対象事業の価値を毀損せずに適切に業務を行っているかを監視する者をいう。」(公取委「令和2年度における主要な企業結合事例について」21頁[脚注21])
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