【I&S インサイト】ペットフードのプレミアムな表示
―「無添加」「添加物不使用」表示で注意すべき事項―

執筆者:福島紘子

 

 目次

 1.プレミアムペットフード市場の拡大

 2.「無添加」「不使用」表示の法的課題

  (1)「無添加」「不使用」表示に対する消費者の認識

  (2)「無添加「不使用」表示の法規制

   .「添加物」表示の法規制

   .「無添加」「不使用」表示の法規制

   .「無添加」「不使用」表示規制違反の場合

 3.さいごに:その他のプレミアムな表示

 

1.プレミアムペットフード市場の拡大

 

コロナ禍で在宅時間が増える中、ペットを新たに飼い始めたり、ペットと向き合う時間が増えたという声をよく聞きます。実際、ペット関連市場は新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年度で前年度比3.4%増の1兆6242億円に膨れました。そんな中、市場から注目されているのが、高価格で利益率が高いプレミアムペットフード(栄養価や安全性に配慮したペットフード)の需要拡大です。プレミアムフードの今年の市場規模は、2019年と比較すると10%拡大し、800億円に迫ると予測されています。

 

プレミアムペットフードといっても、消費者が連想するイメージは様々でしょう。ただその中でも、「無添加」あるいは「添加物不使用」という要素は比較的すぐに挙げられると思います。プレミアムペットフードと「無添加」というワードが消費者の中でいかに強く結びつくかは、例えば、「無添加」と検索にかけてプレミアムペットフードを販売するECサイトにアクセスするユーザが多いことからもうかがえるところです。

 

では、ペットフードのパッケージや広告に「無添加」や「添加物不使用」とうたうこと(以下「「無添加「不使用」表示」といいます。)には、どのような法的な課題が潜んでいるのでしょうか。この記事では、「無添加」「不使用」表示で注意すべき事項について、考えていきたいと思います。

 

2.「無添加」「不使用」表示の注意点

(1)「無添加」「不使用」表示に対する消費者の認識

そもそも消費者は、「無添加」「不使用」表示のどの点に着目しているのでしょうか。

 

ペットフードではなく食品の話にはなりますが、消費者庁の調査(「令和2年度食品表示に関する消費者意向調査報告書(食品添加物の不使用表示関連)」))によれば、添加物を使用していないという内容の表示がある食品を購入している消費者のうち、約66%が「安全と感じるため」、次いで約53%が「健康に良さそうなため」という購入理由を挙げています。

 

<「令和2年度食品表示に関する消費者意向調査報告書(食品添加物の不使用表示関連)」中、
「Q65(購入時の商品選択の際、「添加物を使用していない旨の表示がある食品を購入している」
という方にお伺いします。あなたが「〇〇を使用していない」、「無添加」の表示がある食品を購入する
理由を教えてください。(お答えはいくつでも))の質問の回答>

この傾向は、家族同様のペットが食するプレミアムペットフードを求める消費者においても、大差はないであろうと思われます。つまり、「無添加」「不使用」表示に対して、多くのプレミアムフードのユーザは、当該表示を掲げるペットフードが、安全性が高くペットの健康に役立つだろうと期待するものと考えられます。

 

(2)「無添加「不使用」表示の法規制

.「添加物」表示の法規制

 

そもそもペットフードにおいて添加物は、法的にどのように定義されているのでしょうか。

 

ペットフードの表示について規定するペットフード安全法(正式名称は「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成20年法律第83号)」)に直接の定義はありませんが、同法を所轄する農林水産省公表の「ペットフード安全法 製造に関するQ&A(以下「製造QA」といいます)」によれば、食品における添加物と同様(食品衛生法(昭和22年法律第233号)4条2項)、次のように定義されます(A.4)。

ペットフードの製造の過程において又はペットフードの加工若しくは保存の目的で、添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物

ただ、食品と異なり(食品衛生法12条参照)、何が添加物として使用できるかの判断において、農林水産大臣の指定は不要でメーカー各社に任されています(製造QAA.4)。また、表示の点では、原材料名にはペットフードの製造に使用した添加物を記載する必要があるものの、原材料に含まれる添加物の表示はしなくても構わないことになっています(「ペットフード安全法 表示に関するQ&A」(以下「表示QA」といいます)A.15)。

 

例えば、ペットフードに原材料として「かにかま」を添加している場合、「かにかま」と表示を行うことは必要ですが、「かにかま」に着色料の「赤色3号」が添加されていたとしても、「赤色3号」と表示を行うことは義務ではありません。

 

.「無添加」「不使用」表示の法規制

 

では、「添加物」を使用していないことを積極的に打ち出す、「無添加」「不使用」表示についてはどうでしょう。

 

ペットフード安全法には、表示QAも含めて規定がされていません。ただ、公正取引委員会及び消費者庁に承認されている業界の自主ルール、「ペットフードの表示に関する公正競争規約(以下「本規約」といいます。)」8条柱書及び5号において、「「無添加」、「不使用」又はこれらに類似する用語」を使用する際には「施行規則によらなければならない」と定められています。そして本規約施行規則の6条4号には、次のように規定がされています(以下「本件規則」といいます)。

「無添加」、「不使用」又はこれらに類似する用語は、無添加である原材料名等が明確に併記され、かつ、当該原材料につき、次のア又はイの基準を満たす場合に限り、表示することができる。

ア 添加物以外の原材料に係る表示については、ペットフードの全ての製造工程において当該原材料が使用されていないことが確認できる場合

  添加物に係る表示については、当該添加物につき、ペットフードの表示のための添加物便覧に記載された添加物(加工助剤、キャリーオーバー及び栄養強化目的で使用されるものを含む。)を一切使用していないことが確認できる場合

特に、本件規則イにご着目ください。この規則より、例えば「キャリーオーバー(本規約には定義がありませんが、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)3条「添加物」における定義、「食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されないものであって、当該食品中には当該添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの」に準じると考えられます。なお、食品表示基準の添加物不使用表示についてはガイドラインが改訂中(3月公表予定)であり、注意が必要です。)」により添加物としてペットフード中に微量でも含まれていた場合は、「無添加」「不使用」表示は行うことができません。

 

したがって、ア.の添加物の表示の事例では、原材料(かにかま)の着色料(赤色3号)まで記載する必要はなかったにもかかわらず、「着色料不使用」という表示を行った場合は、原材料(かにかま)に着色料(赤色3号)を使用すれば本件規則に違反することになります。簡単にまとめると次のようになります。

 

  • 単に添加物を記載する場合:原材料に使用された添加物の表示は不要
  • 「無添加」「不使用」表示の場合:原材料に使用された添加物の表示は必要

 

このように、「当該添加物無添加」や「当該添加物不使用」を打ち出すのであれば、原材料にまでさかのぼって、どのような添加物が使用されているかをチェックする必要があります。

 

.「無添加」「不使用」表示規制違反の場合

 

上の事例で、原材料である「かにかま」に「赤色3号」が使用されていたにもかかわらず、「着色料無添加」「着色料不使用」とパッケージや広告にうたった場合、すなわち本規約8条5号違反の表示が行われた場合、そのような表示を行ったメーカーはどうなるのでしょうか。

 

(ア)公正取引協議会が取りうる措置

本件規則は公正取引協議会の定めた自主ルールですので、措置の相手方は公正取引協議会参加メーカーに限られますが、公正取引協議会は、当該メーカーに対し警告を行い(本規約15条1項)、その警告に従わなかった場合、以下のいずれかの手段をとることができます(同条2項)。

 

  • 100万円以下の違約金を課す。
  • 公正取引協議会から除名する。
  • 消費者庁長官に必要な措置を講ずるよう求める。

 

上記の違約金か除名の措置を受けた場合、その旨が消費者庁に報告されます(同条3項)。

 

(イ)消費者庁が取りうる措置

消費者庁は、(ア)で述べましたとおり、公正取引協議会からのアクションを待って動くことができます。ただ同庁は、公正取引協議会が何もしなくても、公正取引協議会非参加メーカーに対してでも、独自に動くことができます。

 

.景表法上の措置命令

では消費者庁がどのように動くか、つまりはどの法律を根拠に動くかといえば、次のとおりとなります。すなわち、ペットフードは飼い主の思いがどうであれ法的には食品ではないため、食品表示法(平成25年法律第70号)ではなく、景品表示法((正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)」。以下「景表法」といいます。))5条1号の不当表示(優良誤認)の規定に反するとして、同法7条1項に基づき措置命令を出すかどうかが検討されます。

 

景表法の措置命令が下された場合、社名が公表されるだけでなく、原則として売上の3%を課徴金として納付することが求められるため(景表法8条1項)、各社としては是が非でも避けたいところかと思います。

 

.「無添加」「不使用」表示と優良誤認

(ⅰ)景表法の規定

それでは、措置命令の前提となる優良誤認表示の定義について、景表法にどう規定されているかを見てみましょう。

商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

ややこしい規定ですので、「無添加」「不使用」表示がどのような場合に優良誤認と判断されるかについて簡単にまとめると、次のようになります。

 

  • 一般消費者が「無添加」「不使用」表示から抱くイメージが、実態とは異なり、「著しく優良」である場合

 

ここで「一般消費者」とは、国民の平均という意味ではなく、「無添加」「不使用」表示に興味をもちそうな、通常の消費者を指します。つまりは、(1)で述べたように、「無添加」「不使用」と銘打たれたプレミアムペットフードに対して、安全性が高くペットの健康に役立つだろうと期待するような消費者のことです。

 

そこで、次のような疑問をもたれるかもしれません。「かにかま」の事例に戻りましょう。

 

たしかに実際には「赤3号」を添加しているのに、表示では「無添加」「不使用」と記載すれば、「かにかま」という商品の実態と消費者が表示から受けるイメージに差が出るであろうことは認める。しかし「赤3号」は、科学的に安全が保証されて食品衛生表別表1号にも記載され、実際に多くの食品でも使用されている添加物なのであり、「無添加」「不使用」表示から受ける認識が実態と異なっていたとしても、そのイメージが実態より「著しく優良」とまではいえず、「優良誤認」の不当表示に当たらないのではないか、と。

 

(ⅱ)2018年3月27日付措置命令の射程

消費者庁がそのようなイメージと実態の隔たりをどのように判断するかについては、2018年3月27日付の措置命令「消表対第289号」(以下「本件措置命令」といいます)が参考になります。

<本件措置命令の対象となった表示(消費者庁HPより)>

 

本件措置命令は、商品カタログに上記画像のような「保存料・着色料・添加物・化学調味料など不使用」などとした表示(以下「本件表示」といいます)を掲載し、あたかも当該商品が科学的な合成添加物を一切せずに製造されたかのように表示を行いながら、実際は、科学的合成添加物であるリン酸三ナトリウム溶液に付けて加工された動物の部位を使用していた点が、優良誤認を招く不当表示であるとして違法と判断されたものです。

 

本件措置命令は食品に関して出されたものであり、ペットフードには関係ないと思われるかもしれません。しかし注目すべきことに、本件措置命令の文言には、食品に関する法令の引用は一切ありません。本件表示がなぜ優良誤認に該当するかを述べる「3 法令の適用」の部分では、ただシンプルに、次のように記載がされているだけです。

自己の供給する本件商品の取引に関し、本件商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示をしていたものであり、この表示は、景品表示法第5条第1号に該当する

このように、本件表示が優良誤認であるという消費者庁の判断は、消費者庁内部での議論はどうであれ、食品衛生法や食品表示法、関連する施行規則を経由することなく示されています。具体的には、リン酸三ナトリウムは、食品衛生法12条が参照する食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)12条の別表第一467に記載される添加物であり、食品表示法(平成25年法律第70号)4条1項1号に基づいて定められた食品表示基準32条により、名称等の表示が義務付けられているにもかかわらず、当該表示は行われなかったという点に少しも言及していません。そして、問題となった商品が、あたかも科学的な合成添加物を添加せずに製造されたものであるかのような表示を行いながら、実際は当該商品はリン酸三ナトリウム溶液に漬けて加工されていた、という事実のみを摘示して、「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示」したとの評価を導いています。

 

このように本件措置命令からは、消費者庁が、添加物を使用していない旨の表示について、そのような記載を行わない場合と比べて、消費者に「実際のものよりも著しく優良である」というイメージを起こしかねないものとみなしていることがうかがえます。

 

そしてそのような判断は、食品関連法令を経由していない以上、食品衛生法や食品表示法上、食品と評価されるものだけではなく、法的には食品とみなされないペットフードにも及ぶと考えるのが自然でしょう。つまり、ペットフードの「無添加」「不使用」表示についても、実際には原材料として、または原材料の中に添加物を使用していた場合、十分に措置命令の対象となり得るということができます。

 

(ⅲ)「科学的に安全」?

ここで、(ⅰ)の最後の疑問に戻りましょう。「無添加」「不使用」表示に関して、使用はしているけれども無添加または不使用と称している添加物は、科学的に安全が保証されているため、当該表示から消費者が抱くイメージがたとえ実態と異なったとしても、それが「著しく優良」とまではいえず、「優良誤認」の不当表示にあたらないのではないか、という疑問です。

 

結論からいえば、表示内容と実際のものが安全性や健康面で科学的に同じ価値であっても、一般消費者にとって実際の物よりも「著しく優良」と思われる表示が行われれば、それは景表法に反する不当表示となります。

 

景表法上の「優良誤認」は、(ⅰ)で述べたとおり、一般消費者であれば表示からどのようなイメージを抱くか、という基準で判断されます。そして「無添加」「不使用」表示問題における一般消費者とは、「無添加」「不使用」表示を見て、それならば安全性が高くペットの健康に役立つだろう期待するような消費者を指しています。

そのような消費者であれば通常、当該ペットフードが表示内容と異なり実際は添加物を使用していた場合、「無添加」「不使用」表示は実態に反した「著しく優良」なものと思うであろうことが予想できます。彼らの考えでは、添加物を使用していないからこそ、ペットの安全と健康に役立つためです。そうした消費者にとって、使われた添加物の安全性が科学的に証明されるか否かは、大した関心事ではないでしょう。若干大げさな表現を使えば、添加物を使用していないという表示を信じていたのに裏切られたことが問題なのであり、いくら科学的には嘘ではないと言ったところで、裏切られたという思いは変わらず、かえって自分たちが正しいかのような主張をするなんて消費者の気持ちをまるで理解していないと、怒りに油を注ぎかねないのです。

 

このような認識をプレミアムペットフードの消費者が抱くことが通常想定される以上、実態と異なり「無添加」「不使用」表示を行うことは、まさに景表法上「優良誤認」そのものであると判断されても不思議ではありません。そしてこの場合、仮にメーカー側で、使用した添加物の安全性が高く、当該添加物無添加または当該添加物不使用の場合と同様またはそれ以上にペットの健康に役立つことを科学的に証明できたとしても、景表法上違法という評価が覆るわけではありません。

 

したがって、各メーカーにおかれましては、不当表示を理由とする措置命令を受けないように、さらには広くレピュテーションリスクを回避するために、表示対策をきちんと行われる必要があると思います。その際には、この記事のイ.の記載をご参照頂ければ幸いですし、より詳細が知りたいという場合には、当事務所にご相談下さい。

 

3.さいごに:その他の「プレミアムペットフード」

プレミアムペットフード市場を形成するペットフードは、「無添加」「不使用」をうたうものに限定されません。202112月号の『日経トレンディ』で2022年のヒット予想の18位に「フレッシュフード」がランクインしたように(同号58頁)、プレミアムペットフードの最前線は、「ヒューマングレード」や「コミュニケーションフード」等、ペットだけではなく人間も美味しく食べられるような表現をうたうところまできています。

 

人間も食べられるのであれば、法的には食品衛生法等で規定される食品とみなされるのかといえば、現段階では、人間も食べることのできるレベルは原材料にとどまっているメーカーが多く、ただちに食品とまでは言えないようです。農林水産省畜水産安全管理課の担当者によれば、人間も食べられることを表示する場合は、食品関連法もペットフード安全法と同様遵守してほしいとのことですが、表示QAでは「そのペットフードを食品とすることが適切かについては各地域の保健所等に確認してください。」と明確な回答を避けており、食品とペットフードの限界事例については、未だ法的な議論がなされていないことがうかがえます。

 

ただ、繰り返しになりますが景表法では、メーカーではなく一般消費者が表示から受けるイメージが基準となります。「ヒューマングレード」や「コミュニケーションフード」といったワードを各メーカーがどのような意味で使用するのであれ、プレミアムペットフードユーザの間で当該ペットフード自体が人間も食べられるレベルであるはずという認識が広がれば、実際はそのレベルに達していなかった場合、不当表示を問われ得ることになります。 

 

各メーカーにおかれましては、消費者の期待値をいたずらに上げることなく、実態に即した表示をすることが求められていると考えます。

 

以上

 

詳細情報

執筆者
  • 福島 紘子
取り扱い分野

Back to Insight Archive