【I&S インサイト】取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案の解説 (DPF消費者保護法案の解説)

執筆者:染谷隆明川﨑由理

 DPF消費者保護新法の概要

消費者庁が立案した「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」(閣法第53号。以下「DPF消費者保護法案」又は「法案」といいます。)は、令和3(2021)年3月5日に閣議決定され、国会に提出されました。

その概要と案文は下記からご確認いただけます。

【消費者庁「第204回国会(常会)提出法案」】

DPF消費者保護法案は、情報通信技術の進展に伴い、インターネットモールやインターネットオークションなどの取引デジタルプラットフォーム(以下「取引DPF」といいます。)が国民の消費生活にとって重要な基盤となっていることから、取引DPFを利用して行われる通信販売に係る取引の適正化及び紛争の解決の促進に関し、取引DPFの提供者(以下「取引DPF提供者」といいます)の協力を確保するため、下記【DPF消費者保護法案の骨子】の措置などを講ずるものです。

【DPF消費者保護法案の骨子】

① 取引DPF提供者が消費者保護のための自主的取組の努力義務を負い、その取組の開示

② 安全性を欠く商品を取引DPF上から削除することを求める要請権限を消費者庁に付与

③ 消費者による取引DPF提供者に対する販売業者等情報の開示の請求権の創設

④ 官民協議会の設置・申出制度

DPF消費者保護新法案は、その立案過程で複数の論点が今後の検討課題となり、当該論点の法制化の見送りとなったこともあり、その内容は消費者保護のため最小限度の規制を取引DPF提供者に行うものとなっています。他方で、いわゆる透明化法と異なり、全ての取引DPF提供者が適用対象となるので、取引DPFを提供する事業者としては、無視することはできない法律です。

そこで、本稿では、DPF消費者保護法案の解説を速報ベースで行い、具体的には、下記(1)から(7)の内容を解説します。

(1)DPF消費者保護法案の適用範囲
(2)取引DPF提供者の努力義務
(3)商品等出品の停止等の要請
(4)販売業者に係る情報の開示請求権
(5)官民協議会
(6)申出制度
(7)施行準備関連

ところで、当事務所は、同年2月4日、公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)と共催した「変革期における消費者保護規制と求められる企業対応」と題するセミナーにおいて、加納克利内閣府消費者委員会事務局長1をお招きし、松本恒雄教授(一橋大学名誉教授・前国民生活センター理事長)と共に、DPF消費者保護法案について議論しました。このことにより同法案の理解が大変深まりました。加納氏及び松本氏に心より御礼申し上げます。なお、本稿に誤りがある場合は全て筆者らの責任によるものです。

 DPF消費者保護法案の具体的規律の概説

(1)DPF消費者保護法案の適用範囲(取引DPFの定義)

  • 適用範囲が広いこと

DPF消費者保護法案の各種措置の適用対象となるのは、「取引デジタルプラットフォーム提供者」(法案2条2項)です。このため、規制の対象を画するには、取引DPF提供者が提供する「取引デジタルプラットフォーム」とは何かを明確にすることが必要です。

この点、「取引デジタルプラットフォーム」とは、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(令和2年法律第38号。以下「透明化法」といいます)2条1項に規定する「デジタルプラットフォーム」のうち、次のいずれかの機能を有するものをいいます(法案2条1項)。

具体的には、消費者のPC・スマホ等の電磁的方法により

 ① 販売業者等との通信販売に申込みをできる機能(同項1号)

 ② 競り等の方法により、販売業者等の通信販売の相手方となるべき消費者を決定する手続に参加することができる機能(同項2号)

を指します。

 ①がインターネットモール型、②がオークションサイト型(ただし、詳細は政令で定められます。)の取引DPFを指します。

そして、透明化法のように、売上要件(透明化法4条1項)などもないので、①インターネットモール型、または、②オークションサイト型の取引DPFであれば、広くDPF消費者保護法案の適用対象となります。

他方で、「通信販売」(特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。以下「特定商取引法」といいます。)2条2項)が要件となることから、クラウドファンディングDPFを例とすると、売買型のものは取引DPFに該当しますが、寄付型や投資型のものは、「通信販売」ではないため、取引DPFには該当しないと考えることになるでしょう。

  • CtoC型DPFは規制対象外

上記の①・②のいずれも「販売業者等」と消費者間の通信販売を要件とすることから、BtoC型のDPFが念頭に置かれた定義となっています。このため、フリマアプリなどのCtoC型のDPFは、「取引デジタルプラットフォーム」に当たりません。

しかし、「販売業者等」とは、業として商品等を提供するものであるため(法案2条4項)、フリマアプリ内において反復継続して転売を繰り返すなど業として商品を出品している、いわゆるプロ出品者は「販売業者等」に該当することがあります。この場合、フリマアプリは、当該プロ出品者(「販売業者等」)と消費者の通信販売との関係では、「取引デジタルプラットフォーム」に該当し、当該通信販売に係る取引に関しては、当該フリマアプリ提供者が、DPF消費者保護法案の適用を受けることには注意が必要です。

(2)取引DPF提供者の努力義務(法案3条)

  • 消費者保護の努力義務の概要

取引DPF提供者は、取引DPFを利用して行われる「通信販売」の適正化及び紛争の解決の促進に資するため、 以下の①から③までの措置の実施の努力義務を負い、その措置を開示する必要があります(3条1項及び2項)。

①  販売業者等と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置

②  販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施 

③  販売業者等に対し必要に応じ身元確認のための情報提供を求める

取引DPF提供者が講ずるこれらの措置は、努力義務にとどまるとはいえ、他方で、消費者保護のために講じた措置を開示することとなりますから、消費者としては、消費者保護に手厚い取引DPF提供者はどこか比較検討しやすくなります。このため、DPF消費者保護法案は、消費者保護の取組みを開示させることによって、取引DPF提供者間で消費者保護施策を競争させ、消費者保護を促進するものであると評価できます。

ただし、消費者による取引DPFの選択は、必ずしも、上記の①から③の事項に限られるものではなく、その他にも、ポイント付与の有無、アプリの使いやすさ、配達の早さ、レイティング機能、他のサービス(例えば電気通信サービスや決済サービス)の充実などの事情も考慮されます。このため、あくまで3条1項に掲げる措置は、「消費者保護」という文脈に限った措置を促すものである点については留意する必要があります。

次に、DPF消費者保護法案の目的に「紛争の解決の促進」(法案1条)が掲げられていることも踏まえれば、例えば、取引DPF提供者にADR(Alternative Dispute Resolution/裁判外紛争手続)やODR(Online Dispute Resolution/オンライン紛争解決)等の紛争解決手段のメニューも努力義務の事項として掲げるという考えもあったように思われ、今後の課題となると考えられます2。この点、例えば、eBAYにおいてはODRが成功していると報告されています。

  • 消費者保護の取組みの開示義務

取引DPFは、「講じた措置の概要及び実施の状況その他の内閣府令で定める事項を開示するものとする」とされています(法案3条2項)。すなわち、当該措置自体の実施は、努力義務であっても講じた措置については、「開示するものとする」とある以上、開示義務が課せられていることには注意が必要です。

なお、消費者庁のDPF消費者保護法の概要資料に「概要等の開示についての努力義務」という記載があり、当該開示も努力義務のように読めますが、これは簡略化して表現した結果に過ぎず、法文上は、「ものとする」とあるため、法制執務の上では、義務を規定したものと読みます3

  • 消費者保護の取組みの指針について

消費者保護のための措置については、内閣総理大臣が指針を定めることとなっております(法案3条3項)。指針の内容は、取引DPF提供者の自主的取組みを促進するという観点からはあまり細かく記載せず、あくまで消費者保護の大枠を示す内容になるものと想定されます。

なお、消費者保護自体は非常に重要である一方で、指針に記載する措置の内容があまりにレベルの高いものになる場合、指針の要求に応えられるのは大規模取引DPF提供者のみということになり、取引DPF事業の公的な参入障壁となってしまうので、これを回避するため、指針の記載の仕方には絶妙なバランスが求められるでしょう。

(3)商品等出品の停止等の要請(法案4条)

  • 概要

内閣総理大臣(消費者庁長官)は、危険商品等が出品され、 かつ、販売業者等が特定不能など個別法の執行が困難な場合、取引DPF提供者に出品削除等を要請することができます(法案4条1項)。そして、取引DPF提供者は、当該要請に応じたことにより販売業者に生じた損害について免責されます(同条2項)。

この規定は、過去に、大手取引DPF提供者に出店する海外の業者からバッテリーを購入した消費者が、当該バッテリーが欠陥製品だったため出火し、自宅が燃える被害を受けたが、出店者との間の紛争解決が困難であったことも踏まえて導入されたものです4

  • 要件

商品等出品の停止等の要請は、下記①から③が要件となります。

① 危険商品等が出品されたこと(安全性等の事項に不当表示があること)

② 販売業者が特定不能など個別法の執行が困難な場合であること

③ 取引DPFを利用する消費者の利益が害されるおそれがあると認められること

この点、商品等出品の停止等の要請が実際に実務でワークするのかは検討を要します。

すなわち、要請の①要件は、商品等の条件の表示が下記のものに該当することが求められます(法案4条1項1号)。

商品の安全性の判断に資する事項その他の商品の性能又は特定権利若しくは役務の内容に関する重要事項として内閣府令で定めるものについて、著しく事実に相違する表示であると認められること、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させる表示であると認められること

「内閣府令」に定められる事項は明らかではないものの、「重要事項」の例示である、「商品の安全性の判断に資する事項」をもとに検討すると、当該安全性の事項が優良・有利誤認表示等に該当することが要件となっています。

この点、販売業者等がバッテリーの強調表示として、「本商品は安全です!」といった表示をしたのに、実際には電池が劣化しており火災を引き起こすものであった、という場合には、本号の要件を充足するでしょう。

しかし、商品等において、「本商品は安全です!」といった安全性の強調表示をする例はどれだけあるでしょうか。中には、商品等の説明において、安全性の強調表示をしていないが、実際には安全ではなかったという事例(不表示事例)も存在するものと思われます。

そして、優良・有利誤認表示などの不当表示規制について先を行く不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号(以下「景品表示法」といいます。)の考えによれば、不表示は、「表示し」(景品表示法5条柱書)たものではなく、原則として、景品表示法の不当表示規制の対象となりません5。このため、商品等の説明において、安全性の強調表示をしていない事例においては、「商品の安全性の判断に資する事項」について「表示」していないとして、要請の①要件を満たさないということがあり得るように考えられます。

他方で、安全性の強調表示が商品等の説明にない場合であっても、商品等の表示全体の印象から安全性の表示がされており、実際には安全ではなかったということであれば、①要件を満たすものと考えられますが、特殊な事例のように考えられます。このように、①要件は、商品等の性能や取引条件のみに着目したものではなく、「表示」を要件としたがため、少なくとも、安全性に問題がある商品等については、その適用範囲が限定的となるおそれがあります。

それに加え、②要件として下記のとおり定められています。

表示をした販売業者等が特定できないこと、その所在が明らかでないことその他の事由により、同号の表示をした販売業者等によって当該表示が是正されることを期待することができないこと。

これは、販売業者等自ら表示を修正することを原則とし、あくまで消費者庁の要請は補充的な位置づけとしたものです。この②要件との関係でも、要請がなされる事例は限られるものと考えられます。

この点、消費者庁が率先して要請することが「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益を保護」(法案1条)という法目的に適合するようにも思われ、②要件を置かない、といった要件設計もあり得たのではないかと考えられます。

最後に③要件として、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益が害されるおそれがあると認めるとき」が定められています。①要件及び②要件を満たす場合には、原則として③要件も認められるものと考えられます。

いずれにせよ、従来の実務では、危険商品等があった場合には、販売業者が特定不能など個別法の執行が困難な場合であるか否かに拘らず、行政庁が、取引DPF提供者に連絡して、削除するよう求めていました。このため、法案4条の要請は、従来の実務に法的裏付けを与えたものであるという整理は一応できるものと考えられますが、その適用範囲が狭いことが課題として残りそうです。

  • 効果

上記①から③の要件を充足する場合、消費者庁は、取引DPF提供者に、販売業者等による当該商品等の提供に係る当該取引DPFの利用の停止その他の必要な措置をとることを要請することができます。消費者庁は、商品等出品の停止等の要請を行った場合には、その旨を公表することができます(法案4条3項)。

この点、上記のとおり実務上は、行政庁が、危険商品等に取引DPF提供者に連絡して、削除するよう求めていたことから、要請を公表する前に取引DPF提供者に対して、特定の危険商品等の掲載の停止を求める指導が行われるものと想定されます。

また、取引DPF提供者は、消費者庁の要請を受けて、当該要請に係る措置をとった場合には、当該措置によって販売業者等に生じた賠償の責任を負いません(法案4条3項)。

なお、DPF消費者保護法案の立案過程では、業界団体から、民事責任のみならず、独占禁止法(昭和22年法律第54号)及び透明化法の責任も免責するよう求める意見がありましたが6、当該要請に従った措置は、通常、これらの法律上違法とされる行為には該当しないと考えられます。

(4)販売業者に係る情報の開示請求権(法案5条)

  • 要件

消費者が損害賠償請求を行う場合に必要な範囲で販売業者の情報の開示を取引DPF提供者に対し請求できる権利が創設されます(法案5条1項)。DPF消費者保護法案の中では唯一の民事上の請求権となります。

具体的には、下記の要件を充足する場合には、「販売業者等情報」の開示を求めることができます。「販売業者等情報」は今後内閣府令で定められる予定です。

① 販売業者等との間の売買契約又は役務提供契約に係る自己の債権(金銭の支払を目的とし、かつ、その額が内閣府令で定める額を超えるものに限る。)の存在

② 当該債権を行使するため、販売業者等情報の確認を必要とすること

③ 販売業者等情報を用いて当該販売業者等の信用を毀損する目的その他の不正の目的で当該請求を行う場合でないこと

ここでは、①を深堀りします。

①の「自己の債権」については、金銭支払を目的としたものであり、かつ、内閣府令で定める額である必要があります。内閣府令はDPF消費者保護法案成立後定められることとなります。

まず、売買契約又は役務提供契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権は、「売買契約又は役務提供契約に係る」債権といえると考えられます。そして、DPF消費者保護法案は、いわゆる消費者裁判手続特例法(平成25年法律第96号)3条2項のように、請求できない損害費目に限定があるわけではないので、賠償の範囲は民法(明治29年法律第89号)416条の解釈に委ねられます。このため、逸失利益が賠償の範囲に含まれる事案では、当該損害を含めたものが「自己の債権」であり、「その額が内閣府令で定める額を超えるもの」の要件を判断することが可能であると考えられます。

次に、消費者が、立証の難易や遅延損害金等の観点から、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)や、製造物責任に基づく損害賠償請求権(製造物責任法(平成6年法律第85号)3条)を選択する場合、これらの請求権が「売買契約又は役務提供契約に係る」債権といえるか問題となります。法令用語の「係る」は、「関する」より直接的な関係に使われると説明されますが、その意味は文脈によって多義的とされます7。本要件との解釈としては、「に係る」に接続するのは、「自己の債権」であり、かつ、それは「金銭支払を目的としたもの」であって、明示的に債務不履行に基づく損害賠償請求権にのみに限定しているわけではありません。加えて、「取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売…に係る…紛争の解決の促進」というDPF消費者保護法案の目的規定(法案1条)や販売事業者等が特定商取引法11条の表示義務を遵守していないことを前提とすることも踏まえれば、「に係る」とは「売買契約又は役務提供契約」を原因としたものであるという意味であると解されるように思います。すなわち、販売業者等との間の通信販売における事故等を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求権等も「売買契約又は役務提供契約に係る自己の債権」に該当するものと考えられます。

実務上は、消費者が取引DPF提供者に対して、開示請求をする場合の添付資料に「当該請求に係る販売業者等情報の確認を必要とする理由」(法案5条2項1号)を記載するものの、訴訟物や請求原因など記載することが必要的記載事項とされているわけではないので、損害額が積極損害や逸失利益のみで「内閣府令で定める額」を超える場合には、請求権の選択は実務上問題となることは多くないでしょう。

他方で、精神的損害なども含めて初めて「内閣府令で定める額」を超えるという場合には、請求権の選択が問題となるものと思われます。精神的損害まで含めて「内閣府令で定める額」を検討する場合には、嫌がらせ目的など開示請求の濫用の危険が指摘できますが、この点は、法案5条1項ただし書の「不正の目的で当該請求を行う場合」でないことの要件によって担保することになるものと考えられます。

  • 効果

消費者は、取引DPF提供者に対し、販売業者等情報の開示請求をすることができます。

他方で、取引DPF提供者が開示請求に応じた場合、販売業者等に生じた損害は免責されるか否かについては、消費者庁の概要資料には、「取引DPF提供者は、適切な手順に従って開示請求に応じた場合、販売業者に対し責任を負わない」という説明がされていますが、この免責については、明文化されていません。このため、取引DPF提供者が販売業者が負った損害の責任を負わないか否かは解釈論となります。

取引DPF提供者は、開示の判断を行うに当たり、請求の要件である一定金額以上の債権の存否について判断を行う必要がありますが、実務上、その存在が確実であることを取引DPF提供者が判断することは困難です。この点に関しては、開示を受けた消費者と販売業者等との裁判において消費者の債権の存在が否定されたとしても、そのことが直ちに本要件が欠けていることにはならない等、その解釈をガイドライン等により明確化することが予定されています8

加えて、取引DPF提供者には、法案5条1項ただし書の要件該当性の判断が容易ではないと思われるため、取引DPF提供者のリスクヘッジという観点からは、例えば、出店者約款などに、出店者は特定商取引法11条の表示事項を常に最新のものにすること及び当該事項に変更があった場合に取引DPF提供者に届け出すること並びにDPF消費者保護法案5条に基づく開示をすることがあること及び当該開示による取引DPF提供者の免責を明記しておくべきでしょう。

(5)官民協議会(法案6条~9条)

国の行政機関、取引DPF提供者からなる団体、消費者団体等により構成される官民協議会を組織し、 悪質な販売業者等への対応など各主体が取り組むべき事項等を協議することとなっています。

主に、法案4条の要請の準備や問題事案の協議など執行関係を念頭とした官民協議会であると考えられますが、それだけではなく、取引DPF提供者の自主的取組みに係る指針(法案3条3項)をバージョンアップする場合の協議なども行われるものと考えられます。

いずれにせよ、取引DPFが介在する消費者取引の適正化及び紛争の解決の促進がなされるため、官民協議会がうまく機能することが期待されます。そして、官民協議会の議論は、多くの取引DPF提供者に影響を与えるものと考えられますので、議論の透明性を担保することが重要だと思われます。

(6)申出制度(法案10条)

消費者を含む「何人も」内閣総理大臣(消費者庁)に対し消費者被害のおそれを申し出て適当な措置の実施を求める申出制度が創設されます。申出を受けた消費者庁は、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、DPF消費者保護法案に基づく措置その他適当な措置をとらなければならないとされています。

この点、類似の制度としては、行政手続法(平成5年法律第88号)36条の3に基づく、処分等の申出制度がありますが、法案10条の申出制度は、調査を行った結果行う措置が、必ずしも、DPF消費者保護法案の措置(すなわち法案4条1項の要請)に限られず、「適当な措置」をとることも含まれている点に特徴があります。特定商取引法61条の申出制度を用例としたものと考えられます。

すなわち、事案に応じて、他法令、例えば、景品表示法や特定商取引法などの方が適切な処理が可能であるという場合、担当課に端緒情報を伝えるといった措置が取られると考えられます。加えて、取引DPFは、技術の進展によりそのサービス形態が変化するものであるから、機動的な消費者保護のための措置という観点からは、自主的取組みの促進やソフトローが重要であるところ、事案に応じて官民協議会の議題として取り上げ、ステークホルダーの意見を拾い上げて対応を検討する、といったことも「適当な措置」として実施されるものと予想されます。

なお、法案10条の申出制度は、独占禁止法45条3項とは異なり、申出をした者に対して調査結果を通知する義務が、行政庁に課されているわけではありません。

(7)施行準備関連

  • 施行日

DPF消費者保護法案は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされています(附則1条)。

また、法案5条に定める開示請求は、施行日後に締結される販売業者との通信販売に係る契約に適用されます(附則2条)。

  • 施行準備

DPF消費者保護法案の施行のためには、政令・内閣府令・指針等を定める必要があります。施行にあたって準備すべき命令等の内容は下記のとおりです。

これ以外にも、前掲注7のとおり、開示請求の解釈についてガイドラインが定められるものと考えられます。

  • 組織法関係及び予算上の措置

DPF消費者保護法案における内閣総理大臣の権限は一部例外を除き、消費者庁長官に委任されます(法案11条)。また、官民協議会の庶務は消費者庁が処理されることとされます(法案7条)。これ受けて、DPF消費者保護法案附則4条によって、消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)を改正し、消費者庁の所掌事務に取引DPFを利用する消費者の利益の保護に関することが追加されます。

DPF消費者保護法案における消費者庁の事務としては、

・要請(法案4条関係)

・官民協議会(法案7条関係)

・申出制度(法案10条関係)

がありますが、それぞれの事務の担当課は、消費者庁組織令(平成21年政令第215号)で決められることになります。

DPF消費者保護法案は、消費者制度課がリードして立案したものですが、消費者制度課は消費者法令の立案等を基本的な所掌事務とし(消費者庁施行令7条)、適格消費者団体の監督を除き、執行には携わらないものと考えられますので、別の課が当該事務を担当するのではないかと予想されます。

例えば、要請は、消費者安全法(平成21年法律第50号)38条の公表と似た一面があるので、その観点では、安全関連の要請は消費者安全課、財産被害関連の要請は消費者政策課財産被害対策室が担当するという考えは有り得そうです。

他方で、DPF消費者保護法案は、「通信販売」が「取引DPF」で行われる場合を念頭においた規制であることに鑑みますと、通信販売規制の派生的な規制といえるので、通信販売規制を所管する取引対策課が所管するという考えもありそうです。いずれにせよ、今後消費者庁内での所管がどうなるか注目されます。

加えて、DPF消費者保護法案に係る消費者庁の業務は相当の負荷となることが想定されますので、人員増加などの予算上の措置も講ずる必要があります。

 最後に

DPF消費者保護法案は、広く取引DPF提供者を定義した上で、消費者保護のための自主的取組を促すなど、DPFが介在する消費者取引の適正化の大きな一歩です。とはいえ、消費者保護という観点から最低限度のDPF規制を行うものであり、今後の施行状況及び経済社会情勢の変化を勘案した施行後3年目途の見直しも予定されています(法案附則3条)。

具体的には、CtoCDPFへの対応、不正レビュー・誹謗中傷レビューやパーソナライズドプライシング・行動ターゲティング広告の他、利用規約、紛争解決やイコールフッティングなどの検討課題などがあります。

日頃取引DPF提供者をサポートしている我々としては、消費者と中長期的な関係を築き、事業の中長期的な成長に貢献すべく、引き続き研鑽していく所存です。

 


  1. 加納氏は、DPF消費者保護新法案の骨子となった消費者庁「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会論点整理」(令和2年8月 24 日)の立案に当時消費者庁制度課長として関与された。当該論点整理については、加納克利=伊藤香織他「『デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会』論点整理」(現代消費者法No.48, 79頁)も参照。
  2. デジタルプラットフォームにおけるODRの活用については、例えば、垣内秀介「デジタルプラットフォーム取引における紛争解決上の課題」(現代消費者法 No.48,63頁)を参照。
  3. 林修三「法令用語の常識」(日本評論社、1958年)47頁。
  4. なお、行政庁がDPFに対して危険商品等がある場合に削除を求める用例としては、薬機法72条の5第2項に基づく、医薬品等の広告規制違反の広告配信停止要請がある。ただし、当該薬機法の措置は、適用対象が取引DPF提供者に限られず、かつ、販売業者が特定不能など個別法の執行が困難な場合といった補充性要件もなく、適用範囲が広いが、これは特に医薬品等については安全性の確保が求められるためであると考えられる。
  5. 例えば、大元慎二「景品表示法 第5版」(商事法務、2017年)57頁など。
  6. 例えば、アジアインターネット日本連盟「『デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会報告書(骨子)案』についての意見」(第11回デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会資料5)。
  7. 例えば、大島稔彦「立法学−理論と実務−」(第一法規、平成25年)220頁。
  8. デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会報告書13頁。

詳細情報

執筆者
  • 染谷 隆明
  • 川﨑 由理
取り扱い分野

Back to Insight Archive