【I&S インサイト】虚偽・誇大なアフィリエイト広告に関し 消費者安全法に基づく注意喚起がされた事例の解説
DATE 2021.03.22
はじめに
化粧品・医薬部外品を販売する2事業者が、肌のシミの改善等の効能効果に関し、虚偽・誇大なアフィリエイト広告をしていたとして、消費者安全法(平成 21 年法律第 50 号)38条1項に基づき、消費者庁が注意喚起を行いました。
消費者庁「虚偽・誇大なアフィリエイト広告に関する注意喚起」(令和3年3月1日)
消費者庁は、虚偽・誇大広告に関し、過去にも消費者安全法に基づく注意喚起をしたことがありましたが1、正面からアフィリエイト広告を取り上げて注意喚起をするのは初めてです2。
アフィリエイト広告に関しては、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。以下「景品表示法」又は「景表法」といいます。)においても不当表示規制が及ぶ場合がありますが(後記3(1))、アフィリエイト広告をするにあたって注意すべきは、必ずしも景品表示法だけでなく、本件のように消費者安全法も含まれることとなります。
そこで、本稿では、具体的な注意喚起事例を通じ、アフィリエイト広告と消費者安全法の虚偽・誇大広告規制の関係と実務上の注意点を解説します。
事案の概要
(1)注意喚起の概要
本件は、株式会社Libeiro(以下「Libeiro」といいます。)が販売する「エゴイプセビライズ」と称する化粧品(以下「エゴイプセビライズ」といいます。)と、株式会社シズカニューヨーク(以下「シズカニューヨーク」といいます。)が販売する「シズカゲル」と称する医薬部外品(以下「シズカゲル」といいます。)の販売において、それぞれ消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為(虚偽・誇大な広告・表示)があったとして、消費者庁が消費者安全法 38 条1項の規定に基づき、消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を公表し、消費者に注意を呼びかけたものです。また、消費者庁は、この情報を都道府県及び市町村に提供し、周知しています。
2社のアフィリエイト広告の具体的な内容とその実際はそれぞれ(2)及び(3)のとおりであったとされています。また、2社は、それぞれ、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)に対して、「エゴイプセビライズ」又は「シズカゲル」についての広告業務を委託し、ASP がアフィリエイターへアフィリエイト広告の作成を再委託することを承知していたほか、これらの商品に係るアフィリエイト広告の表示内容の決定について関与していたとのことです。
(2) Libeiroの行為
Libeiroは、エゴイプセビライズを販売するにあたり、アフィリエイト広告において、下記のとおり、①効能・効果、②体験談、③期間限定表示に関し、虚偽・誇大広告をしていたとされています。
① 効能・効果に係る虚偽・誇大広告
下記のとおり表示することによって、あたかも、当該商品を使用すれば3日から1週間程度で肌のシミが確実に消えるかのように表示していましたが、実際には、当該商品には肌のシミをこのような短期間で確実に解消する効果がなかったとされるもの
・「ノーベル賞成分が入ったブースター美容液 使ったら3日で消えました~」
・「シミとか年齢肌トラブルに悩んでる人はまじでおすすめ!!一週間もたたずに激変しました…」
・「この配合量ならシミが消えますね。レーザーを超えていると思います。(ガチの先生のお墨付き…)」
・「『確実にシミが取れる!!』とテレビで取り上げられ、とにかく売れに売れまくって常に在庫僅かなんです…。」
② 実在しない体験談の虚偽・誇大広告
下記のとおり当該商品を使用したことにより1週間以内に肌のシワが解消したという内容の体験談を表示していましたが、実際には、この体験談は、このアフィリエイト広告を作成したアフィリエイターが画像やテキストを編集して実在の消費者の体験談であるかのようにみせかけた架空のものであったとされるもの
・「たった5日でこの感じです♥思いっきり笑ってもシワは残りません!笑」
・「試した方の多くが、✓5日でほうれい線が消えた ✓シワがなくなった など、1週間 以内に効果を実感している方がほとんどでした。」
・「シワというシワが、ぜーんぶ消えたっ!!!」
・「自分で言うのもあれですが、ここまで凄いともはや整形レベル・・笑」
③ 期間限定表示に係る虚偽・誇大広告
下記のとおり、表示することによって、あたかも、令和元年 12 月 11 日に限り、通常価格 9,800 円の「エゴイプセビライズ」が 2,980 円で購入できるかのように表示していましたが、実際には、当該商品はこの日以降も 2,980 円で販売されていたもの
・「12 月 11 日(水曜日)限定で、このページから購入をすると! 通常 9,800円のところ、69%OFF の 2,980 円で手に入る特別セールを開催中です!」
(3) シズカニューヨークの行為
① 効能・効果に係る虚偽・誇大広告
下記のとおり、表示することによって、あたかも、当該商品を使用すれば誰でも3日程度で肌のシミが確実に消えるかのように表示していましたが、実際には、当該商品には肌のシミをこのような短期間で確実に解消する効果がないとされたもの
・「使った人全員がシミを一瞬で消して美肌になれる!!」
・「その世界最高レベルに極小化されたナノ粒子が肌の角質層まで爆速浸透!!」
・「だからこそ、3日でシミを消せるんです。」
・「しかもシズカゲルが『確実にシミがとれる!!』とテレビで取り上げられてから、さらに全国的に人気が爆発!!」
・「こういう美容商品にありがちな定期縛りも一切ないので本当に 2,980 円ポッキリで体のシミを全部消せます!!」
② 実在しない体験談の虚偽・誇大広告
下記のとおり、当該商品を使用したことにより短期間で肌のシミが解消したという内容の体験談を表示していましたが、実際には、この体験談は、このアフィリエイト広告を作成したアフィリエイターが画像やテキストを編集して実在の消費者の体験談であるかのようにみせかけた架空のもの
・「あの辛口口コミサイトでも話題沸騰 500 円玉くらいのシミがどんどんキレイに」
・「シミって消えるんですね!笑」
・「噂通りたった3週間でこんなにキレイにシミが消えたんです。」
③ 期間限定表示に係る虚偽・誇大広告
下記のとおり表示することによって、「シズカゲル」は令和元年 11 月 26 日までに限って販売されるものであり、在庫数が僅かであって売り切れた場合には長期間購入できなくなるかのように表示していましたが、実際には、当該商品はこの日以降も販売されており、また、在庫が僅少になってはいなかったもの
・「下記リンクは【11 月 26 日(火曜日)】までの限定公開です! 現時点での在庫:残り5個」
・「※売り切れの際は、再入荷に3ヶ月かかりますのでご注意ください。【注意】こちらの商品は、売れ過ぎてよく完売します。」
解説
(1)注意喚起の要件〜「消費者事故等」を中心に〜
- 概要
消費者庁が「消費者事故等」の注意喚起(消費者安全法38条1項)をするための要件は、下記のとおりです。
① 消費者事故等の発生に関する情報を得ること
② 消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めること
(消費者への注意喚起等)
第三十八条 内閣総理大臣は、第十二条第一項若しくは第二項又は第二十九条第一項若しくは第二項の規定による通知を受けた場合その他消費者事故等の発生に関する情報を得た場合において、当該消費者事故等による被害の拡大又は当該消費者事故等と同種若しくは類似の消費者事故等の発生(以下「消費者被害の発生又は拡大」という。)の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故等の態様、当該消費者事故等による被害の状況その他の消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を都道府県及び市町村に提供するとともに、これを公表するものとする。
- 「消費者事故等」と虚偽・誇大広告規制
「消費者事故等」とは、消費者の生命・身体に係る安全に関するもの(消費者安全法2条5項1号・2号関係)だけでなく、消費者の財産関係に関するものも含まれます。具体的な事故の態様等は、消費者安全法施行令(平成21年政令第220号。以下「施行令」といいます。)で定められています。
「消費者事故等」の内容を図示すると下記【消費者事故等一覧】のとおりです。
今回、取り上げられた「消費者事故等」は、
「虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態」(消費者安全法2条5項3号)
のうち、
「商品等又は役務について、虚偽の又は誇大な広告又は表示をすること。」
です(施行令3条1号)。
・「虚偽の又は誇大な広告」とは
「虚偽の又は誇大な広告」は消費者安全法2条5項3号にも例示として挙げられているところです。社会通念に照らして消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある虚偽・誇大な広告・表示を指すとされます3。
・「広告又は表示をする」とは(表示主体)
また、「広告又は表示をする」とは何を意味するのかが問題となりますが、景表法5条柱書の「表示し」の解釈、すなわち、表示主体の議論が参考となります。景表法5条の「表示し」は、「表示内容の決定に関与した」ことをいい、具体的には、下記の3類型を指すとされます4
① 自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定したこと
② 他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めたこと
③ 他の事業者にその決定を委ねたこと
その上で、アフィリエイト広告については「アフィリエイトサイト上の表示についても、広告主がその表示内容の決定に関与している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。)には、広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たる。」と整理されています5。実際にも、アフィリエイト広告が景品表示法の不当表示に該当するとされ措置命令が発出された事案もあります6。
消費者安全法の「広告又は表示する」も景品表示法の「表示し」と同様に解釈して差し支えないものと考えられます。
・「商品等又は役務について」とは(供給主体)
商品等とは、「事業者がその事業として供給する商品若しくは製品又は事業者がその事業のために提供し、利用に供し、若しくは事業者がその事業として若しくはその事業のために提供する役務に使用する物品、施設若しくは工作物」をいいます(消費者安全法2条4項)。また、「役務」とは「事業者がその事業として又はその事業のために提供するもの」をいいます(同条同項)。
消費者安全法2条5項3号における「政令で定めるものが事業者により行われた事態」の「事業者」とは、「商品等」又は「役務」を供給又は提供する事業者を指すと考えられます。したがって、商品等・役務供給主体ではない者、例えば、アフィリエイターなどの広告媒体社は、広告主と商品等・役務を共同提供などしているといった特段の事情がない限り、消費者安全法2条5項3号の「事業者」に当たらないものと考えられます。
【消費者事故等一覧】
- 「消費者被害の発生又は拡大の防止…を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるとき」
「消費者被害の発生又は拡大の防止…を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるとき」は、個別具体的な事案に基づき判断されますが、情報の提供先において当該情報を端緒情報や行政指導の根拠等として活用する場合等が含まれていると考えられています。その考慮要素としては下記のものなどがあげられます7。
・ 個別具体的な消費者事故等が発生しているか
・ 消費者被害が発生・拡大するおそれがあるかどうか
・ 注意喚起・措置要求その他の措置の発動の可否との関係(他の措置の活用で、消費者被害の発生又は拡大の防止が図られるか等)
・ 情報の提供先の属性における情報の活用策、その法的根拠
・ 消費者安全法の目的の利用であるか
(2)本件の検討
- Libeiro及びシズカニューヨークについて
・「消費者事故等」該当性
消費者庁は、Libeiro及びシズカニューヨークの行為が、2(2)(3)のとおりであり、広告表示の内容が事実と異なる上、一般消費者が商品の実際を知っていれば購入しないと考えられるため、両社の広告表示がそれぞれ消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある「虚偽又は誇大」な広告表示と評価したものと考えられます。
また、アフィリエイターが実施するアフィリエイト広告は、両社が「広告又は表示をする」ものであったといえるのか問題となります。この点、公表文は、「Libeiro 及びシズカニューヨークは、それぞれ、ASP に対して、…広告業務を委託し、ASP がアフィリエイターへアフィリエイト広告の作成を再委託することを承知していたほか、これらの商品に係るアフィリエイト広告の表示内容の決定について関与していました。」と認定しています。この事実のとおりであるのであれば、今回問題となったアフィリエイト広告は、両社がそれぞれ「③他の事業者にその決定を委ねた」ものと評価でき、「広告又は表示をする」に該当するものと考えられます。
したがって、両社の行為は、「消費者事故等」に該当します。
・「消費者被害の発生又は拡大の防止…を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるとき」該当性
両社の広告表示に係る苦情が消費生活センターなどに多数寄せられていたということであるから、消費者生活センターはじめ地方自治体において本件を適切に処理する必要があったものと考えられます。このため、「消費者被害の発生又は拡大の防止…を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるとき」にも該当すると評価したものと考えられます。
この点、消費者庁の公表文では、公表日時点(3月1日)において「アフィリエイト広告は閲覧できませんが、令和3年1月時点において、これらの広告と同様に、肌のシミを短期間で解消する効果があるかのような内容の広告が公開されていました」旨の記載があります。既にアフィリエイト広告が閲覧できないのであれば、消費者安全法に基づき情報提供する必要がないのではないか、という指摘があり得るため、「令和3年1月時点において、これらの広告と同様に、肌のシミを短期間で解消する効果があるかのような内容の広告が公開されていました」という旨を敢えて記載したものと考えられます。もちろん、公表日が3月ですので、2ヶ月前の広告を取り上げること自体も、同様の指摘があり得ますが、2ヶ月前の広告であっても、消費者生活センター等においては消費者からの相談業務を行っているものと考えられることから、「消費者被害の発生又は拡大の防止…を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるとき」該当性は認められると整理したものと考えられます。
ただし、上記のとおり、「・注意喚起・措置要求その他の措置の発動の可否との関係(他の措置の活用で、消費者被害の発生又は拡大の防止が図られるか等)」も「注意を喚起する必要があると認めるとき」の考慮要素であるところ、本件は、景品表示法によっても執行できたように考えられ、この点を消費者庁内でどのように整理したのかは検討事項だと考えます。
- アフィリエイター及びASPについて
今回の消費者庁の公表では、アフィリエイター及びASPの事業者は公表対象の事業者となっていません。これは、3(1)のとおり、消費者安全法に基づく虚偽・誇大広告の主体となるためには、商品等・役務の供給主体である必要があります。アフィリエイター及びASPの事業者は供給主体ではないので、公表対象の事業者にならなかったものと考えられます。
最後に
消費者安全法の調査対象となった場合、本件のように公表対象となり得ます。同法の公表がされた場合、企業にとってはそのレピュテーションが大きく毀損され、中には事業が成り立たなくなるものもいたと聞きます。
加えて、同法の公表は、「行政処分」ではないため、行政手続法が適用されません。このため、十分な反論ができないまま、公表されるということもあり得ます。
このため、日頃より消費者の自主的かつ合理的な選択を確保するという観点から、十分な表示管理体制を整備することが求められます。
- 消費者庁「毎月10 万円もうかるビジネスなどとうたい、多額の金銭を支払わせる事業者2社に関する注意喚起 」(令和2年10月7日)。
- 過去SNSの表示が問題とされた例はありますが、アフィリエイト広告かどうかは公表文からは明確ではありません。
- 消費者庁「逐条解説消費者安全法第2版」(商事法務、2013年)43頁。
- 「事業者」に係る解釈に関するものであるが、東京高判平成20年5月23日(平成19年(行ケ)第5号)。
- 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」6頁。
- 株式会社T.Sコーポレーションに対する措置命令(令和3年消表対312号)や株式会社ニコリオに対する措置命令など。
- 前掲注3・202頁。
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