【I&S インサイト】AI等を用いた検査サービスと医師法第17条の整理

執筆者:越田 雄樹

 

はじめに

 

昨今、AIを用いたサービスの開発が後を絶ちませんが、医療ヘルスケア分野においてもAIの導入は加速し、その発展は目覚ましいものがあります。

特に検査サービス分野ではAI等を用いた検査に係る医療機器の開発が急速になされています。

本稿では、医療ヘルスケア分野におけるAI等を用いた検査サービスと医師法第17条の関係を整理します。

 

医師法第17

 

医師法第17条は

医師でなければ、医業をなしてはならない。

と規定されています。

ここでいう「医業」とは、医行為を反復継続して行うものであることを前提として、医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為とされています。

なお、医師法第17条の整理について、詳細はコチラ(https://www.ikedasomeya.com/insight/9652

 

検査サービスと医師法

 

厚生労働省及び経済産業省は、「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」(平成26331日 厚生労働省・経済産業省)において、

医師法第17条により、医師等でない民間事業者は、医業に該当しない範囲で検体採取や検査(測定)後のサービス提供を実施する必要があり、採血等の医行為に該当する行為や、検査(測定)結果に基づく診断等の医学的判断を行うことはできない。このため、民間事業者ではなく、利用者自らによって採血等の検体採取が行われる必要がある。また、民間事業者は、検査(測定)結果に基づく診断を行うことはできないため、検査(測定)後のサービス提供については、検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値を通知することに留めなければならない。また、検査(測定)項目が基準値内にあることをもって、利用者が健康な状態であることを断定することは行ってはならない。

と整理しています。

また、同ガイドラインでは、違法な例として、

無資格者である民間事業者が、利用者に対して、個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。

が挙げられています。

なお、厚生労働省は、「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー」(令和66月 厚生労働省ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム)において、

医師法等を所管する立場から、厚生労働省において、医行為と非臨床の消費者向け検査サービスに係る法的な課題の検討を進め、非臨床の消費者向け検査サービスの外縁の明確化に取り組む。

具体的には、令和6年度中に以下の対応を検討・実施する。

①    不適切な検査結果通知を適正化するため、「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」
  (平成26 年厚生労働省・経済産業省連名通知)において示している「検査(測定)結果の事実や検査(測
        定)項目の一般的な基準値を通知することに留めなければならない」という医師法第17条の考え方に関
       して、関連 Q&Aや事務連絡を発出するなどして、解釈の明確化を図る。

②    消費者に通知される検査結果等が公知の科学的根拠に欠ける場合など、無資格者が独自の医学的判断を行
         っているものとして医師法違反に該当する恐れがある事例等につき解釈を明確化する。

としていますが、現状、特段の明確化等はなされていません。

 

また、厚生労働省は、令和2年3月26日の一般社団法人日本病理学会からの疑義照会に対して、検体検査に基づいて、患者に対して、医学的判断を伴う罹患の可能性の提示や診断(病理学的診断)を行う行為は、人体に危害を及ぼすおそれのある行為であり、これを反復継続する意思をもって行った場合は医師法に規定する医業に該当するとしています(「疑義照会への回答について」令和2年3月27日 厚生労働省医政局医事課長)。

 

検査サービス分野へのAIの導入と医師法

 

上記を踏まえると、医師を介在させないスキームで、AIを検査サービス分野に導入するとしても、患者に対して、医学的判断を伴う罹患の可能性の提示や診断(病理学的診断)を行う行為は行えず、「検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値を通知することに留めなければならない」という考え方を踏襲する必要があります。

また、少なくとも現状は、「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」(平成301219日医政医発12191号 厚生労働省医政局医事課長通知)においても整理されているとおり、AIは診療プロセスの中で医師主体判断のサブステップにおいて、その効率を上げて情報を提示する支援ツールに過ぎず、判断の主体は少なくとも当面は医師である必要があると考えられています。

 

グレーゾーン解消制度

 

グレーゾーン解消制度とは、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。

医療ヘルスケア分野においてもグレーゾーン解消制度が広く用いられており、検査サービスと医師法第17条との関係で公表されているものがいくつかありますので紹介します。

 

(1)事例1

臨床検査の委託元の医療機関に対し、医療機関から依頼された一般血液検査の検査結果に加え、医療機関から依頼があった場合にはAIで解析した甲状腺機能異常症に関する情報を甲状腺AI解析レポートとして医療機関に提供するサービスが医師法第17条に違反するか。

 

<回答>

当該事業において、検査結果の事実や検査項目の一般的な基準値を医師に提供する限りは、医師法第17条に違反しない。 

 

(2)事例2

看護師又は准看護師が、検体採取を必要とせずに インフルエンザを判定する製品を用いたサービスを提供することが医師法第17条に違反するか。

 

<回答>

検査に係る行為を医師の指示に基づいて看護師又は准看護師が実施する限りは、医師法第17条又は保健師助産師看護師法第37条に違反しない。

 

最後に

 

「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー」にもあるように、近々、厚生労働省によって「検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値を通知することに留めなければならない」という医師法第17条の考え方に関して、解釈の明確化がなされることが想定されます。

これによって、事業者の検査分野におけるAI開発の指針が一定程度示されるかとも思いますが、一方で、AIの開発スピードはすさまじく、医師法との関係ではその適用の判断が困難な事例が今後も増加することが予想されます。

例えば、画像診断に係る医療機器等はAIを用いた方がより異常の検知が迅速かつ正確になる可能性があり、いつか医師の画像診断を行う能力を上回ることが想定されます。このように、AIを用いたサービス、医療機器の性能が医師の能力を明らかに超えた場合、当該行為が「医師が行わないと危険な行為」から「医師が行うよりも安全な行為」に代わることになる可能性があります。そうした場合に医師法第17条との関係でどのように整理すべきかが問題となります。

医師法の適用関係等でお悩みがありましたら専門家にご相談いただければと思います。

 

 

以上


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