【I&S インサイト】No.1アピールにご用心―消費者庁が「No.1表示に関する実態調査報告書」を発表―

執筆者:福島 紘子

 

「売上第一位」「業界最安値」「日本初」「満足度No.1」「使いやすさNo.1」―。

 

自社製品や自社サービスの優位性をアピールしたい、できれば自社のものが一番といいたい。このように、他社と比較して自社の商品・サービスが最も優れている、または最も有利であることをアピールする表示(以下「No.1表示」といいます。)をよく見ます。しかし安易なNo.1表示は、現在、最も消費者庁が警戒している広告手法の一つでもあります。

9月26日、消費者庁は「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下単に「報告書」といいます。)を発表しました。報告書発表の目的の一つは、「事業者に対し、安易にNo.1表示を行わないよう注意喚起をする」1という点にあります。No.1表示については、2023年度以降、報告書公表までに既に14社への措置命令が行われました。そして報告書の発表を受けて、これからNo.1表示に関する措置命令の動きが活発化することも予想されます。実際、過去に消費者庁から「打消し表示に関する実態調査報告書」が出された後は、不適切な打消し表示に関する措置命令が頻発されたこともあり、No.1表示を検討する際は十分に注意する必要があります。

そこで今回の記事では、報告書に表れている消費者庁の問題意識を紹介し、No.1表示を行うにあたりどのような点に気を付けるべきか、ポイントを解説します。

 

 <目次>

 1. なぜ安易なNo.1表示は問題視されるのか

 2. 適切なNo.1表示とは

 3.おわりに

 

1. なぜ安易なNo.1表示は問題視されるのか

 

(1)一般消費者への影響の大きさ

 

消費者庁はなぜ安易なNo.1表示を問題視するのか。まずはNo.1表示を規制する際の根拠法である、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号))の目的が規定された、1条を見てみましょう(下線は引用者)。

この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。

ここからは、景品表示法が不当な表示を規制するのは、そのような表示が「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」があるためだということが読めます。そして商品・サービスに関する表示が、通常の消費者による商品選択に与える影響が大きければ大きいほど、表示内容が実態と乖離する場合、「自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」は大きくなるはずです。

そこで報告書ではまず、消費者の意識調査の結果が記されています。報告書によれば、No.1 表示を見たことがある消費者について、新しい商品・サービスを購入する際に、これらの表示が購入の意思決定にどの程度の影響を与えるかを調査したところ、約5割の回答者が、「かなり影響する」または「やや影響する」と回答しています。

<報告書第2の3 (1)「購入の意思決定に与える影響」(7頁)より引用>

 

消費者庁は、以上の調査結果から、No.1表示が「購入の意思決定に与える影響は大きい」と結論付けています。No.1表示が不当である場合、「自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」が高いため、規制を行う必要がある、というわけです。

 

(2)第三者の主観的評価という問題

 

ア.第三者の主観的評価とは

 

No.1表示が消費者に与える影響の大きさに加え、近年とりわけ消費者庁が問題視する類型のNo.1表示が広告手法として拡がっていることも、今般改めてNo.1報告書が公開された理由として挙げられます2。消費者庁は、報告書の形でまとめられた実態調査の実施を発表した3月の時点で、「イメージ調査に関するNo.1表示というのはやはり最近の傾向」であり、「今回特に問題といたしたいのは印象を問うようなNo.1」であると明らかにしています3。報告書の冒頭で、以下のとおり下線つきで強調されているところです(報告書第1(2頁))。

今般、消費者庁は、第三者の主観的評価を指標としている No.1 表示(以下「主観的評価による No.1 表示」という。)を中心に No.1 表示を巡る実態を調査するとともに、景品表示法に対する理解を促進し、一般消費者による自主的かつ合理的な商品等の選択を保護する観点から、景品表示法について一定の考え方を示すこととした。

 

主観的評価によるNo.1表示とは、「顧客満足度No.1」や「コスパ最高」といったような、広告を行う事業者以外の第三者による評価を指標としたものです。報告書によれば以下の表のとおり、半数以上の消費者が、「顧客満足度No.1」や「人気No.1」の表示で、No.1とされている商品・サービスの実際の利用者が調査対象となっていると思っていたと回答しているようです。

<報告書アンケート「実際の利用者による評価だと思うか」(第2の3 (2)イ(10頁))>

 

イ.専門家による高評価の表示

 

「顧客満足度」における「顧客」のような一般人だけでなく、訴求する分野で権威のあると認識されている専門家による評価も、第三者の主観的評価であり、一般消費者から商品・サービスの内容の優良性を示していると認識され得る点で同じ問題を抱えています。そこで報告書では、厳密には他社の商品・サービスと比較した最上級表現ではないため、「No.1」表示ではないものの、「医師の〇%が推奨」や「ファイナンシャルプランナーの〇%が安心して利用できると回答」のように、専門家が商品・サービスの購入・利用を薦めていたり、商品の効能・効果の保証を行っているような、当該専門家による主観的評価も、「No.1表示等」として報告対象に加えています(以下では本記事でも、専門家の高評価%表示も含め「No.1表示等」と記します)。

 

(3)調査会社の問題

 

第三者の主観的評価の問題点に加え、報告書では、調査会社と広告主の関係にも重点を置いて検討を行っています。消費者庁は、不当なNo,1表示等がされる要因や背景事情のうち、「問題が大きい」のは、広告主が、委託先の調査会社による調査について、自ら調査内容を十分に確認せず、安易に調査結果を受け入れてしまうことにより、調査会社による不適切な調査が蔓延していると警告しています(報告書第5の1(1)(24頁))。

実際、報告書に先立つ2022年1月、日本マーケティングリサーチ・協会が「非公正な「No.1 調査」への抗議状」を公表していたように、No.1表示の裏付けと称する調査に対して、さまざまな方面から疑義が呈されていました。

 

2. 適切なNo.1表示に向けての対処法

 

それでは、どのようなNo.1表示等が景品表示法上違法とされるおそれがあるのでしょうか。以下で整理していきたいと思います。

 

(1)No.1表示全体に共通する考え方

 

すべてのNo.1表示に共通する考え方として、まずこれまで2008年報告書や消費者庁の「不実証広告ガイドライン4」等で示されてきた大枠に変更はありません。すなわち、No.1表示は、合理的な根拠に基づいて行われなければならず、合理的な根拠に基づくといえるためには、以下のいずれの条件も満たす必要があります。

 ① No.1表示の根拠とされる調査が、以下のいずれかの方法で実施されていること

  (ア) 関連する学術界・産業界において一般的に認められた方法または関連分野の専門家多数が認める方法

  (イ) 社会通念上および経験則上妥当と認められる方法

 ②表示内容が①の調査結果と適切に対応していること

 

(2)主観的評価によるNo.1表示の場合

 

ただ、特に主観的評価によるNo.1表示について、報告書では(1)①を細分化する形で、以下の三要素をすべて満たす必要があると規定しています。

  • 比較する商品・サービスが適切に選定されていること
  • 調査対象者が適切に選定されていること
  • 調査が公平な方法で実施されていること

ア 比較対象商品・サービスについて

 

まず比較対照となる他社の商品・サービス(以下「比較対象商品・サービス」)については、No.1表示を行いたい商品・サービス(以下「訴求商品・サービス」といいます。)と、たとえば価格帯やターゲット層について、同種か類似のものを選定する必要があります。さらに、同種・類似の商品・サービスのマーケットで主要なものを比較対照に含めなければなりません。

 

イ 調査対象者について

 

調査対象者についても、恣意性を排除するため、客観性を担保するよう求められています。たとえばロイヤリティーの高い顧客や自社社員に対するアンケートでは、適切な調査と認められないおそれがあります。

特に注意すべきは、1(2)アで言及したような、「顧客満足度No.1」や「人気No,1」、「コスパが良いと思うNo.1」、「使ってみたいNo.1」等、調査対象者が実際の利用者であるかのような印象を与え得るNo.1表示です。このような表示を行っているにもかかわらず、調査の実態が、アンケート等の回答者に対して訴求商品・サービスや比較対象商品・サービスのURLを示し、「ご覧いただいたサイトの中で、「サポートの手厚さの満足度が高い」と思うものをすべて選んで下さい。」とウェブサイトの印象で回答させるような、いわゆるイメージ調査である場合、調査は不適切と判断されるおそれがあります。

ではどのような調査であれば不適切ではないかといえば、報告書では、「個別の事案ごとに、表示の内容、商品等の特性等を踏まえて判断される」と個別具体的な検討の必要性が指摘されています。たとえば「コスパが良いと思う○○サービス No.1」と表示する際には、調査対象とするサービスの利用者の大部分が、通常よりも著しく安いキャンペーン料金でサービスを受けている場合、当該利用者を調査対象から外す必要があります。

 

ウ 調査方法について

 

報告書では、調査内容の客観性が担保されるよう、調査方法についても、恣意性やバイアスを排除した公平な調査が行われるよう留意すべきとされています。たとえば自社の商品・サービスをアンケートの選択肢の最上位に固定する等、訴求商品・サービスが有利になるように回答を誘導したり、問題の商品・サービスが1位になるまで調査を繰り返したりといった、結論ありきといえる調査を行っている場合、景品表示法上問題となるおそれがあります。

 

(3)専門家による高評価の表示

 

基本的に(2)と同様としながらも、報告書ではさらに、一定の有資格者や専門家の主観的評価から商品・サービスの優良性をアピールするという手法の特性から、特に調査対象者の選定について留意すべきとされています。

<報告書専門家による高評価の表示イメージ画像(報告書第2の3(3)(11頁))>

 

このような表示は、具体的には以下の場合に合理的根拠とは言えない場合があるとされています。「医師の90%が推奨!」という表示について見てみましょう(報告書第4の2(23頁))。

 ① 調査回答者が医師かどうかを自己申告により確認するだけで、医師であることを客観的に担保できていない場合

 ② 調査対象者である医師の専門分野(専門の診療科等)が、対象商品・サービスを評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合

 ③ 調査対象者である医師が、回答に際し、調査会社等から、対象商品等の品質・内容について合理的な根拠がない情報の提供を受けている場合

 

③の具体例としては、たとえば調査会社から当該医師に対し、「△△試験の結果、この商品には○○の効果がある」、「この商品は安全性について○○の認定を受けている」等の情報が提供されているものの、その情報が事実と異なっていたる場合や、効果等が客観的に実証されているとはいえない場合が挙げられています。

 

3. おわりに 

以上のように、広告主がNo.1 表示等、特に主観的評価によるNo,1表示等を行うに際しては、調査会社にどのような調査を委託し、どのような結果を得たのかを把握することが極めて重要です。

この点1(3)で述べたとおり、消費者庁は、広告主が調査会社を適切に管理できていないことが、景品表示法上問題のあるNo.1表示等が量産されている大きな要因の一つとみています。報告書では、「不当な No.1 表示等の防止に向けて」と題する最終章(報告書第5)の1(2)で、広告主が「根拠を確認する際は、単に、第三者機関による調査が実施されていることのみを確認するだけでは不十分であり、調査内容が表示内容と適切に対応しているかどうかなど、自らの責任において当該 No.1 表示等が合理的な根拠を有しているといえるかを確認する必要がある。」と強調されているところです。

ただ実際、No.1表示等を作成するにあたりどのような調査が必要か、調査会社に委託するとしたらどのように調査内容を指示・確認すべきか、等の点について、作成したい表示に応じた細やかな個別具体的な判断が求められます。また、可能な調査内容によって表示できるNo.1表示等も異なり、違反の場合は措置命令の可能性が高い割に、報告書で必要とされる事項を実践するとなると悩ましい部分も多いかと思います。その際には、景品表示法に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

 

 

以上


  1. 消費者庁新井長官2024年3月21日会見要旨参照。
  2. かつて景品表示法を所管していた公正取引委員会は2008年、「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下「2008年報告書」)を公表している。
  3. 注1参照。
  4. 公正取引委員会「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」(2003年)

詳細情報

執筆者
  • 福島 紘子
取り扱い分野

Back to Insight Archive