【I&S インサイト】景表法改正で不当表示に罰金が課されますが、どう対処しましょうか。

執筆者:小野翔太郎 

はじめに 

来る本年10月1日、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)が改正され、有利誤認表示や優良誤認表示をした者を対象に、罰金を課すことのできるいわゆる直罰規定が新設される予定となっています。この直罰規定については、既に当事務所でもインサイトを掲載させていただいているところではございますが、今回は、昨年度まで検察官として事件処理に従事していた筆者の目線から、事業者やインフルエンサーの皆様に向けて、より踏み込んだ形で、予想される実際の運用や直罰規定が適用されそうになった場合の対処について考えてみたいと思います。 

新設される直罰規定等の概要 

 ⑴ 直罰規定の要件(インフルエンサーにも直罰規定の適用があるか) 

実際の運用の目処等について検討していく前に、まずは改めて新設予定の条文の内容を確認していきたいと思います。 

 第48条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。 
 一 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。 
 二 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。

第49条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。 
 一 (略) 
 二 前二条 各本条の罰金刑 
2 法人でない団体の代表者、管理人、代理人、使用人その他の従業者がその団体の業務又は財産に関して、前項各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その団体に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。 
3 前項の場合においては、代表者又は管理人が、その訴訟行為につきその団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の訴訟行為に関する刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定を準用する。

簡単に解説すると、新設予定の48条がその行為類型を、49条がいわゆる両罰規定を設けているものになります。それぞれの文言解釈に関しては、既に掲載済みのインサイトをご確認いただくとして、ここでは、この罰則を適用するに当たっての刑法上のハードルについて考えていきたいと思います。 

まず行政処分における場面よりも刑法上の問題が表出しやすいと考えられるのは、故意(刑法38条1項)の認定でございましょう。刑法上の故意とは、講学的に言えば、犯罪事実の表象(認識・予見)と認容を意味するものと考えられておりますが(大コンメンタール刑法第三版 第3巻 9293頁等)、誤解をおそれずにざっくりと言ってしまえば、「一般消費者が誤認するおそれのある表示を、それと分かって行った」のであれば、法48条の故意に欠けるところはないものと考えられます(これは、裁判員裁判における「殺意」の説明と同旨です。)。仮に捜査の手が及んだ場合、事業者の目線では、この故意を争うという方針も考えられましょう当然、事案にもよりますが、故意を争う場合、基本的には、それが単なる「法の不知」や「評価の誤り」にとどまらず、事実の認識そのものに誤りがあると認められる必要がございますから、主張の内容については、吟味して行っていただくのが肝要と言えましょう。 

他方、別の観点として、48条各項の行為者については、「当該違反行為をした者」との規定になっており、かつ、この行為者については、「自己の供給する商品又は役務の提供における…誤認させるような表示をしたとき」との規定になっていることから、商品等の供給者である必要があるものと考えられます(これを、以下「供給要件」といいます。)。そのため、第一次的には、行為者(=不当表示を行った者)は、同時に、商品等の供給者(法人事業者の場合には、従業員である担当者を含むものと考えられます。)であることが想定されているということで、48条は、いわゆる真正身分犯(刑法65条1項と解釈するのが妥当でございましょう。当該供給要件に関しては、もとより景表法の不当表示の違反要件として規定されていたもの(景表法5条柱書)ですから、このような規定の仕方になっていることも然もありなんといったところでしょうか。 

このように整理すると問題になるのは、供給要件を充足しないインフルエンサーの方々も、直罰規定の対象になるのかどうかです。これについては、刑法65条1項が、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」との規定になっておりますので、形式的に言えば、直罰規定の対象にはなり得るということになります。同様に、表示を作成するのみの広告代理店の方々も、形式的には直罰規定の対象になり得ると言えるでしょう。とはいえ、当然ですが、実際に直罰規定を適用するためには、共犯性の認定が必要になります。共犯性の認定については、一般に「共謀」と「共謀に基づく実行行為」が必要とされています(大コンメンタール刑法第三版 第5巻 352363頁等)。インフルエンサーの方々への直罰規定の適用が問題となる時点で、不当表示がそのインフルエンサーの方々によって行われたことは間違いないでしょうから、「実行行為」となる表示行為自体はある前提になります。そのため、問題となるのは「共謀」が認められるかどうか、そして、その表示は「共謀に基づく」と言えるかどうかになります。 

そもそも、「共謀」という言葉の意味は、実務上では、「意思連絡」と「正犯性」の2つによるものと説明されますが、ここも誤解をおそれずに簡単に言えば、「一般消費者が誤認するおそれのある表示をするということを、供給者と相通じ合った」ことが意思連絡であり、「その表示を自己の犯罪として行った」ことが正犯性といい得ると考えられます。通常、インフルエンサーの方々は、供給者たる事業者から、広告を行うに当たって何らかの利益を得て行うものでしょうから(有形の利益がないのだとしても、従前からの付き合いがあってそれを維持するなど無形の利益はあると思われます)、当該表示を自己の犯罪として行っていない、すなわち正犯性がないとの主張は相当困難なものと考えられます。そうだとすると、真に問題となるのは「一般消費者が誤認するおそれのある表示をするということを、供給者と相通じ合った」かどうかです。 

このような意思連絡の立証は、通常、2者間でどのようなやり取りがなされていたかなどの事情を、客観的に残っているメール等のやり取りをベースに把握し、その上で供給者及びインフルエンサーや広告代理店の方々から供述を得て、その供述が信用できるかどうかを見極めるという流れで行われます。つまり、最も重要になるのは客観証拠であり、インフルエンサーや広告代理店の方々が、いくら「供給者から詳しい説明を受けていなかった」と言ったところで、それがメールや供給者の供述と齟齬する場合には、信用してもらえない可能性が高いということになります。 

そのため、インフルエンサーや広告代理店の方々の目線では、まずは自己の身を守るという観点で言えば、供給者から広告対象の商品について、客観的に残るメール等の形で、詳細な説明を受けることが重要です。そして、自らが表示したり、作成を依頼されたりした広告が、供給者の説明と違うものではないかと思った場合には、その広告を表示したり、作成したりする仕事を断っていただくべきでしょう。こうすれば、仮に供給者がインフルエンサーや広告代理店の方々に対して、虚偽の説明をすることにより、インフルエンサーや広告代理店の方々が結果として騙されてしまったとしても、その虚偽の説明がきちんと客観的な証拠として残りますから、身を守ることができるわけです。 

これは、供給者の目線からでも、同じことが言えます。すなわち、例えば、インフルエンサーが供給者の予定する広告に反して、過剰な広告をしたことで、結果として不当表示になってしまうような場合もあり得るでしょう。この場合でも、元々予定する広告の内容や商品の内容をきちんと説明したことを客観的に残しておくことで、表示の主体が供給者ではないという立証をすることができ、供給者の身を守ることができます。つまり、いずれの立場であっても、きちんと商品等と広告の内容を説明した上で、それが客観的な形で残るようにしておくことが重要になるものと考えられます。 

 ⑵ 不正競争防止法との関係での景表法の直罰規定の意義 

ここからは、直罰規定が新設されることによる意義について考えていきたいと思います。というのも、不正競争防止法21条3項1号及び同項5号では、いわゆる誤認惹起行為(商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量又はその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をする行為)についての罰則が定められており、これに違反した場合は、行為者に5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨が定められております(また、両罰規定として、法人に対しては3億円以下の罰金刑が定められています(不正競争防止法22条1項3号)。)。不正競争防止法における誤認惹起行為と、景表法上の不当表示については、重複する部分も多くあることから、単純に「不正競争防止法の罰則規定だけあればいいのでは?」との疑問も生じるところかと思いますので、新設される直罰規定の意義について、ここで改めて整理しておきたいと思います。 

価格に関する有利誤認表示を罰則の対象にできること 

おそらく構成要件的に最も大きなところがこの①の価格に関する有利誤認表示について、罰則対象にできることではないかと思います。不正競争防止法の誤認惹起行為において列挙されている誤認対象となる商品の性質に、「価格」は含まれていないことから、価格に関する誤認は、同法の規制対象外であると考えられています。これに対し、新設される48条2項は、「当該商品又は役務の価格その他の取引条件について」という形で、しっかり価格に関する不当表示を規制対象とする旨を明示しておりますから、価格に関する誤認も、規制対象に含まれるということになります。 

行為者の罰金額が100万円にとどまっており、懲役刑の選択肢もないため、運用しやすいと思われること 

こちらは後述する実務上の運用とも関わってきますので、詳細は後述としますが、新設される直罰規定に懲役刑はなく、行為者の罰金額が法定刑において100万円以下と比較的小さい額にとどまっております(不正競争防止法の法定刑の罰金500万円に比して5分の1。)このような法定刑の比較的軽い部類の犯罪類型は、捜査機関側の目線では取り回しが良いと見られる可能性が高く、逆に言えば、積極的に利用される可能性も十分にあると言えるでしょう。 

想定される直罰規定の運用と、捜査対象になった場合の対処 

この項目では、直罰規定の運用が開始された場合の捜査の流れと、捜査対象になった場合の対処について考えていきたいと思います。 

 ⑴ 想定される直罰規定の運用と捜査の流れ 

そもそも、景表法を所管しているのは消費者庁になりますから、これまで、景表法上の不当表示についての調査は、基本的には消費者庁が行っておりました。 

ですが、この直罰規定については、独禁法の直罰規定のような犯則事件の調査手続は置かれておりません。そのため、少なくとも、消費者庁による犯則調査の結果が、検察庁に直接送致されるといった流れは想定されていないものと言えます。これに対し、消費者庁が調査を行った結果、直罰規定の適用を要すると考え、検察庁に告発を行う、ということはあり得る流れです。また、景表法上の行政処分については、都道府県知事もその権限を有しておりますから、都道府県知事から検察庁に告発されるということもあり得ると言えます。 

ここで、直罰規定の運用については、令和5年4月11日、以下の内容の国会答弁もなされていますので、抜粋してご紹介します。 

 ○吉田(統)委員 それでは、ちょっと時間がなくなってきちゃったので、残り、直罰規定のところだけ大臣に確認をさせてください。 
 
 今回の法改正第四十八条で、優良誤認表示及び有利誤認表示に関し、表示と実際に乖離があることを認識しつつ、これを認容して違反を行うような悪質な者に対して百万円以下の罰金を科すこととし、さらに、第四十九条では、この罰則に加え、優良誤認表示及び有利誤認表示を行った事業者に対しても百万円以下の罰金を科することとした両罰規定を置きました。 
 
 そこで、なぜこのような規定を新設したのか、導入の理由と目的を簡潔にお答えください。 
 
○河野国務大臣 景品表示法は一般消費者の商品選択を守る法律であることから、現行法上、不当表示を行った事業者に対しては、まず行政処分としての措置命令が行われ、さらに、この措置命令に違反した場合の罰則はあるものの、不当表示を行ったことを直接罰する規定はございません。 
 
 しかしながら、景品表示法違反に係る端緒件数を見ると、端緒件数は年々増加傾向にあり、さらに、事業者の中には、表示内容について何ら根拠を有していないことを認識したまま表示を行うなど、表示と実際に乖離があることを認識しながらこれを許容して違反行為を行うような悪質な事業者が存在するというのも事実でございます。端緒件数に関して申し上げれば、平成二十六年度六千四百八十七件が令和三年度には一万二千五百七十件、倍近く増えている。 
 
 そういう中で、こうした事業者にとって行政処分による抑止力だけでは不十分と考えられることから、より強い抑止手段として、社会的制裁を与えるために、優良誤認表示及び有利誤認表示を行った者を直接罰する規定及び両罰規定を導入することとしたわけでございます。 
 
○吉田(統)委員 もう時間がなくなってまいりましたが、直罰規定とも関係が大きいんですが、大臣、現状で、警察が介入すると考えられるような悪質な事案はどれくらいあると御認識なんでしょうか。 
 
○河野国務大臣 現状に関して、なかなか一概に申し上げられるようなデータがございません。警察がどれぐらいの事案で介入するかというのを、これはなかなか一概に申し上げるのは困難でございます。 
 
 今回の改正で直罰規定を設けていただいておりますので、よっぽど悪質なものについてはこれが適用されることになると思いますが、そこは、消費者庁というよりは警察当局、刑事当局、裁判所の判断ということになりますので、消費者庁としてはその辺りの状況をしっかり注視していきたいというふうに思っております。

この国会答弁の内容からすると、警察が直罰規定をどのように運用するかについての具体的なビジョンは全くないようですが、他方で、消費者庁や都道府県知事から検察庁への告発という流れもあまり強くは想定されていないように見受けられます。つまり、景表法の直罰規定の適用に当たっては、消費者庁や都道府県知事の告発や情報提供を待たずに、警察が独自に捜査を実施し、それを検察庁に送致するという流れも少なからず行われるものと想定されます。これまでの調査の中心を担っていた消費者庁は、東京の霞ヶ関にあるのみですが、警察は全国に所轄が存在し、警察官の人数も膨大ですから、消費者庁とはマンパワーが段違いです。また、往々にして、警察は、新設された罰則を積極的に適用して捜査を進めようという傾向もございますから、新設直後から、複数の事業者やインフルエンサーの方々に、捜査の手が及ぶ可能性は十分に考えられるでしょう。 

 ⑵ 警察の捜査が及んだ場合の対処 

最後に、供給者たる事業者の方々や、インフルエンサーの方々の下に、警察から連絡が来た場合の対処について記しておきます。 

前記のとおり、新設される直罰規定の法定刑は、表示者で罰金100万円という比較的軽いものになっております。形式上は逮捕も可能ですが、基本的には逮捕・勾留しての捜査を中心にするとは考えにくいと思われます(もちろん、事案によって違いますが、一般論としては、法定刑が罰金のみの場合、積極的な逮捕は是とされにくいと言えます。)。そのため、「話を聞かせてほしい」ということで、警察からアポイントの連絡が来る可能性が高いでしょう。 

このような連絡があった場合には、すぐに警察に会うのではなく、まずは弁護士に相談することをお勧めします。他方で、メール等のやり取りなどの証拠は絶対に消さないようにしておくこともお勧めします。その証拠の中に、自分の身を守るものがあるかもしれませんし、むしろ消したことがバレてしまうと、疑われる原因を自ら作ることになるからです。その後の方針については、個別の事案に応じて弁護士と相談して決めるのが良いかと思いますが、仮に法人処罰まで及ばないような事業者であれば、上限の罰金額が100万円であることから、正式裁判にまで至らず、いわゆる略式手続によって処理される道もあります。また、事案次第では、そもそも処罰されない、不起訴となる可能性も十分にあります。 

その意味でも、初動対応は非常に重要なものになりますので、可能な限り早期に弁護士へ相談していただくことをお勧めしますが、どの弁護士に相談すれば良いのか、お困りになる方も多いと思います。この点に関しては、新設された直罰規定も、景表法上の不当表示該当性がまず問題となり、専門性が要求されるものですから、まずは景品表示法に精通している弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。 

 

 

以上


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執筆者
  • 小野 翔太郎
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