【I&S インサイト】オンライン会議を使用する消費者向けビジネスの留意点 〜特定商取引法の電話勧誘販売該当性〜

執筆者:宮内優彰

 

オンライン会議で消費者に商品や役務の説明している場合、電話勧誘販売に当たる可能性がある

コロナ禍以降、Zoom等のオンライン会議をビジネスで使用する場面が急増し、現在では完全に普及したといえます。消費者向けのビジネスにおいても、オンライン会議を利用して消費者に商品や役務の説明を行うケースが増えてきているように思います。

しかし、オンライン会議で商品や役務の説明を行う場合には、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(以下「特定商取引法」といいます。)の「電話勧誘販売」(特定商取引法2条3項)に該当し、クーリング・オフ、書面交付義務といった様々な規定の適用対象となる可能性がありますので、今一度自社の取引が電話勧誘販売に該当しないか確認が必要です。

 

電話勧誘販売の定義

特定商取引法では、電話勧誘販売を

販売業者又は役務提供事業者が、電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘・・・により、その相手方(以下「電話勧誘顧客」という。)から当該売買契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該売買契約を郵便等により締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は電話勧誘顧客から当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該役務提供契約を郵便等により締結して行う役務の提供をいう

と規定しています(特定商取引法2条3項)。

 

(1)「電話をかけ」には、事業者がオンライン会議のURLを送った場合も含まれる

「電話をかけ」とは、電話(有線、無線その他の電磁的方法によって、音声その他の音響を送り、伝え、又は受けるもの)により通話状態に入ろうとすることをいい、インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合も含む)を用いた場合であっても「電話」に該当します。事業者がオンライン会議を設定し、消費者に会議用URLを送って消費者の反応を待っているような場合、オンライン会議ツールはインターネット回線を使って通話する形式であるため、事業者がURLを送った行為が、通常、「電話をかけ」に該当すると考えらます(消費者庁逐条解説11頁、12頁)。

実際に、オンライン会議のURLを消費者に送ったことをもって「電話をかけ」に該当すると認定した行政処分事例も存在します(令和5年7月13日付け消費者庁「特定商取引法違反の事業者に対する取引等停止命令(15か月)・業務停止命令(9か月)及び指示並びに当該事業者及びその使用人4名に対する業務禁止命令(15か月及び9か月)について」参照)。

 

(2)「勧誘」に当たる範囲は広範

「勧誘」とは、事業者が顧客の契約締結の意思の形成に影響を与える行為であり、「○○を買いませんか。」などと直接購入を勧める場合だけでなく、その商品等を購入した場合の便利さを強調するなど客観的にみて顧客の購入意思の形成に影響を与えていると考えられる場合は「勧誘」にあたります(消費者庁逐条解説13頁)。

そして、オンライン会議で商品や役務の説明をする場合、当該商品や役務の良さを伝えるのが目的といえるため、当然その良さの説明がなされるものといえます。したがって、オンライン会議で商品や役務の説明をする行為は、基本的には、客観的にみて顧客の購入意思の形成に影響を与える行為といえ、「勧誘」に当たるものといえます。

 

(3)契約申込みや契約締結は勧誘のあった電話でなされることを要しない

電話勧誘販売に該当するためには、契約申込みや契約締結が「郵便等」でなされる必要がありますが、「郵便等」には、電話、インターネットといった遠隔通信手段が広く含まれます(特定商取引法施行規則2条)。このことからもわかるように、電話勧誘販売における契約申込みや契約締結は、必ずしも勧誘のあった電話内でなされる必要はなく、当該契約申込みや契約締結が「勧誘・・・により」なされたといえる限り、勧誘があった電話の後になされるものも含まれます。

なお、勧誘後どの程度の期間を空ければ「勧誘・・・により」契約申込みや契約締結がなされたといえなくなるかについては、勧誘の威迫性、執よう性、トークの内容等により異なるため、日数で一概に規定できませんが、事業者から最後に電話があった時から1か月以上も経って消費者から申込みがあったようなケースであれば、「勧誘・・・により」とはいえない場合が多いと考えられます(消費者庁逐条解説14頁)。

 

(4)小括

以上のことからすれば、オンライン会議で、事業者から消費者に商品や役務の説明がなされ、その後消費者が契約申込みや契約締結をした場合、契約申込みがリアルの場で対面でなされた場合を除き、基本的に電話勧誘販売に該当するものといえます。

なお、店舗で商品の販売や役務の提供を行う事業者が、消費者が店舗を訪問する前提としてオンライン会議で商品や役務の説明を行った場合において、説明が功を奏し過ぎてオンライン会議上で消費者が契約申込みの意思表示をしてしまった場合、その後、店舗で契約締結がなされたとしても、電話勧誘販売に該当してしまうため注意が必要です。

 

電話勧誘販売該当性の判断を誤った場合のリスク

電話勧誘販売に該当する場合、特定商取引法の各種規制が適用されますが、特に違反しやすく注意が必要なのは、勧誘に先立つ事業者名、勧誘を行う者の氏名、商品・役務の種類及び勧誘目的の明示義務(特定商取引法16条)、申込み内容や契約内容を明らかにする書面の交付義務(特定商取引法18条、19条)、クーリング・オフ等の解除に応じられない旨告げる不実告知(特定商取引法21条1項5号)です。

これらの違反があった場合、業務停止命令等の行政処分の対象となりますし(特定商取引法22条1項、23条1項・2項、23条の2第1項・2項)、書面の交付義務違反や不実告知については刑事罰の対象にもなります(特定商取引法70条1号、71条1号)。

また、電話勧誘販売にあたる場合、消費者は、上記の書面が交付された日から起算して8日間はクーリング・オフ(一切の負担を伴わない無条件の申込み撤回・解除)することができ(特定商取引法24条1項)、書面を交付していない場合や、交付していても法定記載事項に不備がある場合には、半永久的にクーリング・オフの対象となると考えられます1。この点は事業者にとっては大きなリスクといえます。

 

リスクを避けつつオンライン会議を活用するために

上記のようなリスクは、そもそも電話勧誘販売に該当しないとの誤認から生じるケースもありますので、まずは自社の取引方法が電話勧誘販売に該当するか再検証する必要があると思われます。

そして、仮に電話勧誘販売に該当する場合には、クーリング・オフを起算させる観点からも、消費者に交付する書面は、法定記載事項について一点の不備もないようにしておく必要があります。また、特定商取引法の行為規制に違反しないよう、オンライン会議の際のトークマニュアルや消費者からの解除等の申出への対応マニュアルなども精緻なものを準備しておく必要があります。

オンライン会議は、遠隔の消費者との対話を可能にし、事業者、消費者双方にとって非常に有用なものですので、どのような法的整理がなされるか的確に把握した上で、今後の益々の活用が期待されます。

 

以上

 


 

  1. あまりにも長期間経過した後などに行われるクーリング・オフは、権利濫用として認められない場合もあります。

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