【I&S インサイト】消費者庁が確約手続に関する運用基準(案)を公表

執筆者:川﨑 由理

 

はじめに

昨年5月10日に成立した不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律(令和5年法律第27号。以下「令和5年改正法」といいます)においては、事業者の自主的な取り組みの促進、違反行為に対する抑止力の強化等を目的として、主に以下の点が改正されました。

  • 確約手続の導入
  • 課徴金制度における返金措置の弾力化
  • 課徴金制度の見直し
  • 罰則規定の拡充
  • 国際化の進展への対応
  • 適格消費者団体による開示要請規定の導入

令和5年改正法の施行(遅くとも本年11月)が迫る中、改正事項の中でも執行実務に大きな影響を与える変更点の一つである確約手続に関する運用基準案が公表されましたので、本稿ではその内容について説明します。

 

確約手続

.1 確約手続とは

確約手続とは、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。以下「景品表示法」といいます)の違反被疑行為の調査があった場合において、調査対象の事業者が一般消費者による自主的かつ合理的な商品および役務の選択を確保するための是正措置等を実施する計画を有するとき、消費者庁長官がその計画を認定するなどの一連の手続をいいます。

確約手続により確約計画が認定された場合、認定の対象となった違反被疑行為について措置命令および課徴金納付命令の規定は適用されないことになります。

 

<参照:令和5年改正法>

(是正措置計画に係る認定の効果)

第28条 第7条第1項及び第8条第1項の規定は、内閣総理大臣が前条第3項の認定(同条第八項の変更の認定を含む。次条において同じ。)をした場合における当該認定に係る疑いの理由となつた行為については、適用しない。ただし、次条第一項の規定による当該認定の取消しがあつた場合は、この限りでない。

 

.2 手続の開始

確約手続は、消費者庁が景品表示法の規定に違反する行為があると疑うに足りる事実がある場合において、その疑いの理由となった行為(以下「違反被疑行為」)について、一般消費者による自主的かつ合理的な商品および役務の選択を確保するうえで必要があると認めると判断した際に実施される手続です。確約手続に付するか否かは消費者庁の裁量となりますが、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出ることができるとされています。

この確約手続は、消費者庁が当該違反の疑いのある事業者に対し、

  • 違反被疑行為の概要
  • 違反する疑いのある法令の条項
  • 違反被疑行為及びその影響を是正するために必要な措置の実施に関する是正措置計画又は違反被疑行為による影響を是正するために必要な措置の実施に関する影響是正措置計画(以下「確約計画」と総称)の認定の申請をすることができる旨

を記載した書面による通知(以下「確約手続通知」)を行うことで開始されます。 

消費者庁が確約手続通知を行うことができるのは、景品表示法に係る調査の開始から弁明の機会の付与の通知(措置命令に係る行政手続法(平成5年法律第88号)第30条の規定による通知又は課徴金納付命令に係る令和5年改正法第15条第1項の規定による通知)を行うまでの間となります。

 

.3 手続の流れ

確約手続通知を受けた者(以下「被通知事業者」)が確約認定申請をする場合、確約手続通知を受けた日から60日以内に、確約計画を作成し、確約認定申請をする必要があります(令和5年改正法第27条第1項、第31条第1項の規定により、)。確約認定申請が行われた場合、消費者庁は、当該確約計画が令和5年改正法第27条第3項各号又は第31条第3項各号の認定要件に適合するか否かの判断を行い、当該確約計画が認定要件に適合すると認めるときには、当該確約計画の認定がされることになります。

(出典)「令和5年景表法改正法の概説と実務への影響 - 確約手続・直罰規定の導入!」Web版 BUSINESS LAWYERS 202384日付

. 確約手続の対象   

..1 対象行為

 

確約手続通知は、「第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があると疑うに足りる事実がある場合」、あるいは、「第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があると疑うに足りる事実が既になくなつている場合」に行うことができると定められています(令和5年改正法第26条、第30条)。このため、確約手続の対象行為は、景品規制(懸賞告示または総付告示)に違反すると疑われる行為と表示規制(優良誤認表示、有利誤認表示及び指定告示に係る表示)に違反すると疑われる行為となります。

 

..2 確約手続通知をするか否かの考慮要素

 

消費者庁は、違反被疑行為について確約手続通知をするに当たっては、個別具体的な事案ごとに、確約手続により問題を解決することが一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があるか否かを判断することになります。

具体的には、

  • 違反被疑行為がなされるに至った経緯(令和5年改正法第22条第1項に規定する義務の遵守の状況を含む。)
  • 違反被疑行為の規模及び態様
  • 一般消費者に与える影響の程度
  • 確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情

を考慮する、との考えが示されています。

 

..3 確約手続を利用できない場合

 

以下のような場合には、違反被疑行為等の迅速な是正を期待することができず、違反行為を認定して法的措置をとることにより厳正に対処する必要があることから、確約手続の対象外となる旨、明示されています。

①違反被疑行為者が、違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、令和5年改正法第25条第1項の規定による報告徴収等が行われた日又は景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日のうち最も早い日から遡り10年以内に、法的措置を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)

②違反被疑行為者が、違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合

 

.5 確約計画の認定 〜認定を受けるための措置内容とは〜

..1 認定の要件

 

確約計画の認定に当たっては、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する観点から、当該確約計画における是正措置または影響是正措置が、①違反被疑行為等を是正するために十分なものであること(以下「措置内容の十分性」)及び②確実に実施されると見込まれるものであること(以下「措置実施の確実性」)を満たす必要がある、と定められています(令和5年改正法第27条第3項又は第31条第3項)。

運用基準案では、是正措置または影響是正措置の内容として、以下のものが例示されています。

 

<措置内容の十分性要件を満たすため措置の例示>

措置内容の例

① 違反被疑行為の取りやめ

② 一般消費者への周知徹底

③ 一般消費者への被害回復

違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、その購入額の全部又は一部について返金すること

④契約変更

違反被疑行為がなされるに至った要因が、の既存の取引先にも存すると認められる事案等の場合

⑤ 取引条件の変更

例えば、違反被疑行為が取引条件に関する不当表示に該当する疑いのある行為である事案において、表示内容に合わせて取引条件を変更する等

  

<措置内容の確実性要件を満たすため措置の例示>

措置内容の例

⑥ 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置(再発防止措置)

⑦ 履行状況の報告

確約措置の履行状況について、被通知事業者又は被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者(消費者庁が認める者に限る。)が消費者庁に対して報告する

 

確約計画の認定要件を充足するために、単独の措置で足りるのか、複数の措置を組み合わせなければならないのかについての明確な基準は示されておらず、ケースバイケースで判断されることになります。ただ、運用基準案によれば、「過去に法的措置で違反行為が認定された事案等のうち、行為の概要、適用条項等について、確約手続通知の書面に記載した内容と一定程度合致すると考えられる事案の措置の内容を参考にする」とされていますので、過去の措置命令事案と同等の事案と考えられるものについては、景品表示法に基づく措置命令で求められるレベルの対応(①違反被疑行為の取りやめ、②一般消費者への周知徹底、⑥再発防止措置)は最低限必要な措置とされるのではないかと考えられます。

 

..2 認定又は却下

 

措置内容が認定要件に適合すると判断された場合、違反被疑行為については法的措置に係る規定は適用されない、すなわち、当該違反被疑行為について措置命令及び課徴金納付命令は課せられません(令和5年改正法第28条又は第32条)。

他方、確約措置の内容が違反被疑行為の一部にしか対応していないなど、確約措置が認定要件に適合しないと判断するときには、確約認定申請が却下されることになります(令和5年改正法第27条第6項又は第31条第5項)。この場合、確約手続通知が行われる前の状態に戻り、景品表示法違反被疑事件に係る調査が再開されることになります。

 

..3 認定に関する公表

確約計画の認定をした後、消費者庁は、確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から、

  • 違認定確約計画の概要
  • 当該認定に係る違反被疑行為の概要
  • 確約認定を受けた事業者名
  • その他必要な事項情

を公表することとされました。

事業者名等は公表されるものの、公表に当たっては、景品表示法の規定に違反することを認定したものではないことが付記されることになっています。

 

終わりに

 

景品表示法における確約手続の導入により、違反被疑事件に係る調査を受けた場合に採りうる選択肢が増えたことは間違いありません。措置命令及び課徴金納付命令という行政処分を回避できるという意味でも非常に有用な手段ではあります。しかし、確約計画の認定を受けた場合には、違反被疑行為の概要に加え、将来実施すべき確約計画概要と事業者名も公表されることになります。公表に当たり、「景品表示法の規定に違反することを認定したものではない」ことが付記されるとしても、公表を契機として特定適格消費者団体などから返金要請が行われる可能性もあることから、確約手続の利用に二の足を踏む事業者もいるのではないかと思います。

当局対応を強みとする当事務所では、事案を精緻に分析し、確約手続という選択肢を検討すべき事案か否かを検討するとともに、仮に、確約手続を選択肢として検討しなければならない場合には、当該事案において実施すべき是正措置又は影響是正措置の立案を含めたサポートができればと考えています。

 

以上


 

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