【I&S インサイト】電話勧誘販売の規制範囲拡大

執筆者:川﨑由理

 

 はじめに

 

本年6月1日より、特商法(特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)の一部を改正する施行令(昭和51年政令第295号。以下「施行令」)及び施行規則(昭和51年通商産業省令第89号。以下「施行規則」)が施行され、特商法2条3項に定める「電話勧誘販売」の「電話をかけさせ」る方法に新聞広告・テレビ広告・ウェブ広告などを利用する方法が追加されます。

これにより、例えば、ある商品に関するテレビ広告を見て注文の電話をしてきた消費者に対し、広告に記載していないにもかかわらず、当該商品の定期購入コースを提案し、申し込みをさせた場合、「電話勧誘販売」に該当することになります。

電話勧誘販売に該当する場合、書面交付義務や再勧誘の禁止など、通信販売よりも厳しい規制を受けることになります。違反した場合には、行政処分のみならず刑事罰の対象となる可能性もあるため、関連業種の事業者の方々は、規制の内容を十分に理解した上で、必要な対応を進めていただく必要があります。

 

 改正の内容

 

特商法では、事業者自身が一般消費者に電話をかけて行う勧誘行為のみならず、「政令で定める方法により電話をかけさせ」て行う勧誘行為についても、「電話勧誘販売」に該当すると規定し、「訪問販売」などと同様の厳しい規制をかけています。

というのも、事業者からの巧みな働きかけにより消費者が電話をかけさせられた場合、消費者が自発的に購入意思を形成した上で電話をかけているとはいい難く、電話をかけた段階では予期していない勧誘を不意打ち的に受けるという意味においては、事業者が電話をかけて勧誘した場合と差はないため、電話勧誘販売の対象に含めることが適当であるためです1。 

今回の改正では、上記のような不意打ち的勧誘性は「電話をかけさせ」る契機となった広告媒体の種類によって異なるものではないことから、新聞広告・テレビ広告・ウェブ広告などの媒体についても対象に含めたのではないかと考えられます(下表赤字箇所が追記箇所)。

 

 

もちろん、新聞や雑誌等に掲載する広告、ラジオ放送、テレビ放送、ウェブ広告等を利用して電話をかけさせる勧誘行為の全てが「電話勧誘販売」に該当するわけではありません。条文上明記されているとおり、「売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけ」させる場合、すなわち、消費者から電話を受けた際に購入を勧める商品やサービスに関して販売する目的があることを告げずに電話をかけさせる場合が適用対象になります。

どのような表示を行うことで販売する目的があることを告げていると評価されうるのか問題となりますが、「電話勧誘販売」の定義に関する逐条解説2によれば、「何らかの商品を販売する意図は告げているものの本来販売しようとする商品(役務)について告げずに電話をかけさせるものも本号に該当する」と記載があることから、「販売しようとする商品(役務)」それ自体について広告上表示することが必要であると考えます。

例えば、

<ケース1>

美容効果を訴求するサプリメント(単品)を紹介するテレビ通販広告を見て電話をかけてきた消費者に対し、広告の中で紹介されていないにもかかわらず、当該サプリメントの定期コースを勧めて購入の申し込みを受ける場合、単品販売と定期コースとは別商品と解されているため、「本来販売しようとする商品について告げ」ているとは評価できず、「電話勧誘販売」に該当することになります。

<ケース2>

掃除機を紹介するテレビ通販広告を見て電話をかけてきた消費者に対し、広告の中で紹介していない掃除機のクリーニングキットの購入を勧め、併せて購入の申し込みをさせるような場合、掃除機とクリーニングキットが関連商品であるとしても、クリーニングキットについて広告の中で記載していない以上、「本来販売しようとする商品について告げ」ているとは評価できず、「電話勧誘販売」に該当することになるのではないかと考えます。

 

 「電話勧誘販売」に適用される行政規制等

 

消費者から電話を受けた際の勧誘行為が電話勧誘販売に該当する場合には、以下の規定等の適用を受けることになります。

 

上記のような行政規制に違反した事業者は、下表に記載された行政措置の対象となるほか、一部は刑事罰の対象にもなります。

 

さらに、通信販売規制と大きく異なる点として、クーリング・オフが適用になる取引であるという点があげられます。この制度は、消費者が契約の申込み、又は、締結した後でも、法律で決められた書面を受け取った日(同法18条又は19条の書面のいずれか早い方を受領した日)から8日以内であれば、事業者に対して、書面又は電磁的記録により申込みの撤回や契約の解除ができる制度です(同法24条)。

法律で決められた書面を交付しなければクーリング・オフの起算日は進行しないことになりますので、そのような観点からも現在行っている勧誘行為を通じた取引が本年6月1日以降に「電話勧誘販売」に該当するか否かを早急に確認する必要があるでしょう。

 

 事業者に求められる対応

以上のとおり、「電話勧誘販売」に該当しうる取引を行う事業者の方々は、現在実施している勧誘行為を通じた取引が「電話勧誘販売」に該当するか否かを見極め、通信販売にとどめたいのであれば勧誘内容の見直しや広告の修正を行う必要がありますし、上記対応をしないのであれば、電話勧誘販売に該当する前提で法令に則した対応を行うことが必要です

どのような内容の文言をどのような方法で記載すべきかなど、お悩みの点がございましたら、お気軽にご相談いただければ幸いです。

以上


 

  1. 特定商取引法ガイドの電話勧誘販売の解釈に関するQAhttps://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/telemarketing.html)。
  2. 消費者庁「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」3(2)②ロ

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