【I&S インサイト】[連載⑤]令和5年景品表示法(景表法)改正法案の解説と実務的課題(適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請)
DATE 2023.04.03
執筆者:染谷隆明
【連載⑤適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請】
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題
〜確約手続・直罰導入後の景表法の展望〜
本稿は令和5年景表法改正法案の解説実務的課題に関する連載の第5回です。ここでは、新たに導入される適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請について解説します。本連載の目次は下記のとおりです。
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題 目次
Ⅰ 令和5年景表法改正法案の概要
3 課徴金額の算定規定の拡充(8条4項・5項・6項関係)
4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項関係) 5 確約手続の導入(26条〜33条関係) 〜【連載⑤適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請】〜 6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係) 8 罰則規定の拡充(48条関係) Ⅳ 最後に |
Ⅲ 令和5年景表法改正法案の解説
6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係)
適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定が新設されます(35条)。
(1)要件
ア 要請主体は適格消費者団体
35条1項に基づき合理的根拠資料の開示要請を行えるのは、消費者契約法2条4項に規定する適格消費者団体です。執筆時点において23団体が消費者庁から適格消費者団体として認定されています。
イ 対象となる表示:事業者が現にする表示が優良誤認表示行為に該当すると疑うに足りる相当な理由があること
35条1項に基づく要請の対象となる表示は、「事業者が現にする表示」です。このため、事業者でない者が行う表示は対象ではありません。既に表示行為をやめている場合には当該表示は要請対象ではありません。
また、「事業者が現にする表示」は34条1項1号の表示、すなわち、優良誤認表示である必要があります。すなわち有利誤認表示や指定告示に係る表示は当該要請の対象にはなりません。そして、当該要請を行うためには「事業者が現にする表示」が、優良誤認表示行為に該当すると疑うに足りる相当な理由がある必要があります。
ウ 内閣府令で定める方法により、その理由を示して合理的根拠資料の要請を行うこと
(2)効果
35条1項に基づく要請を受けた事業者は、合理的根拠資料に営業秘密(不正競争防止法(平成5年法律47号)2条6項に規定する営業秘密)が含まれる場合その他の正当な理由がある場合を除き、前項の規定による要請に応じるよう努めるものとされます。
(3)実務に与える影響
35条1項に基づく要請には、7条2項に基づく資料提出要求権のような優良誤認表示のみなし効果があるわけではありません。そして、適格消費者団体が34条1項に基づき事業者の表示に対して差止請求等を行う場合、当該表示が優良誤認表示に該当することについて立証責任を負っています。それにもかかわらず、35条1項に基づく要請の効果は、合理的根拠資料の開示要請はあくまで努力義務であり、事業者が開示する義務があるわけではないため、適格消費者団体の立場からすると、今回の改正にどの程度実効性があるのか、という意見があり得ます。
他方で、事業者の立場からすると、35条1項の要請に対しては慎重な対応が求められるでしょう。なぜなら、適格消費者団体からの要請は適格消費者団体のホームページで公開されることが想定されるところ、当該要請を受けた事業者が合理的根拠資料を開示しなかった場合、当該事業者が開示をしなかったことも併せて公表されるものと考えられるためです。すなわち、当該資料を開示しなかったことが公表されることよって、当該資料の対象である商品の評価が毀損される可能性があります。また、当該開示をしなかった理由如何においては、適格消費者団体による差止請求訴訟における裁判所の心証にも影響する場合もあります。
7 国際化の進展への対応(41条関係)
内閣総理大臣は、景表法に相当する外国の法令を執行する外国当局に対して情報提供を行う制度が創設されます。内閣総理大臣は、当該情報の提供のためには、当該情報が当該外国執行当局の職務の遂行以外に使用されず、また、(内閣総理大臣の同意がある場合を除き)刑事事件の捜査等に使用されないようにする措置を講ずる必要があります(41条)。
次回連載⑥は、直罰と施行準備について解説します。
【連載⑥直罰と施行準備】はこちら
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