【I&S インサイト】[連載④]令和5年景品表示法(景表法)改正法案の解説と実務的課題(確約手続)
DATE 2023.03.31
執筆者:染谷隆明
【連載④確約手続】
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題
〜確約手続・直罰導入後の景表法の展望〜
本稿は令和5年景表法改正法案の解説実務的課題に関する連載の第4回です。ここでは、新たに導入される確約手続の導入について解説します。本連載の目次は下記のとおりです。
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題 目次
Ⅰ 令和5年景表法改正法案の概要
3 課徴金額の算定規定の拡充(8条4項・5項・6項関係)
4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項関係) 〜【連載④確約手続の導入】〜 5 確約手続の導入(26条〜33条関係) 6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係) 8 罰則規定の拡充(48条関係) Ⅳ 最後に |
Ⅲ 令和5年景表法改正法案の解説
5 確約手続の導入(26条〜33条)
(1)概要
事業者が4条または5条の規定に違反する行為がある、または、行ったと疑うに足りる事実がある場合において、内閣総理大臣は、その疑いの理由となった行為について、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるときは、措置命令や課徴金納付命令の弁明の機会を付与する前に限り、当該違反の疑いのある事業者に対し、当該違反行為の概要などを記載した書面を通知することができます。当該通知を受けた事業者は、当該違反行為の影響を是正する必要な措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けることができます。当該事業者が認定を受けた場合、認定取消しがされない限り、当該行為について、 措置命令及び課徴金納付命令が課されないこととすることで、迅速に問題が改善されます(26条~33条)。この一連の手続は確約手続と呼ばれています。
確約手続の流れの概要は下記のとおりです。
(2)独禁法の用例
確約手続の用例1としては、既に独禁法が平成28年改正2で導入されています(同法48条の2から48条の9)。また、公正取引委員会の確約手続に関する規則(平成29年公正取引委員会規則1号)や「確約手続に関する対応方針」(平成30年9月26日公正取引委員会)も定められています。そして、独禁法の確約手続は、本インサイト執筆時点で、主に不公正な取引方法(独禁法19条)の違反被疑行為に関して下記のとおり認定実績があります。
令和5年景表法改正法案が成立した場合における施行準備や運用状況を検討するにあたっては一つの参考となるでしょう。
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認定日 |
認定事業者 |
違反被疑行為 |
① |
R1.10.25 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕) |
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② |
R2.3.12 |
独禁法3条(私的独占)及び19条(不公正な取引方法12項〔取引妨害〕) |
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③ |
R2.6.4 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕) |
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④ |
R2.8.5 |
独禁法19条(2条9項5号〔優越的地位の濫用〕) |
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⑤ |
R2.9.10 |
独禁法19条(2条9項5号〔優越的地位の濫用〕) |
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⑥ |
R.2.11.12 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕) |
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⑦ |
R3.3.12 |
独禁法19条(2条9項5号〔優越的地位の濫用〕) |
|
⑧ |
R4.3.16 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕) |
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⑨ |
R4.3.25 |
独禁法19条(不公正な取引方法14項〔競争者に対する取引妨害〕) |
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⑩ |
R.3.3.26 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕) |
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⑪ |
R4.5.19 |
独禁法19条(第2条9項4号(再販売価格の拘束)) |
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⑫ |
R4.6.2 |
独禁法19条(不公正な取引方法12項(拘束条件付取引)) |
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⑬ |
R4.6.30 |
独禁法19条(不公正な取引方法14項〔競争者に対する取引妨害〕) |
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⑭ |
R5.4.6 |
独禁法19条(2条9項5号〔優越的地位の濫用〕) |
(3)確約手続の要件
ア 確約手続の通知及び認定の主体
確約手続を行うための通知及び違反被疑事業者が申請する是正措置計画・影響是正措置計画(以下「是正措置計画等」と総称します。)の認定を行う主体は、内閣総理大臣ですが(26条本文及び30条本文)、景表法に基づく内閣総理大臣の権限は、消費者庁長官に委任されること(政令に定めるものを除く。)から、実務上は消費者庁長官が確約手続の通知及び認定主体となるでしょう。
●Column7:都道府県知事を確約手続の通知及び認定主体とするための条件 |
イ 確約手続の対象行為
確約手続の対象行為は、「第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があると疑うに足りる事実がある」ことと定められています。このため、不当な景品類(4条)と不当な表示(5条)を行なったと疑われる行為が対象となります。すなわち、不当な景品類という意味では懸賞告示または総付告示に違反すると疑われる行為のそれぞれが、不当な表示という意味では優良誤認表示、有利誤認表示及び指定告示に係る表示を行なっていると疑われる行為のそれぞれが、確約手続の対象行為となります(以下「違反被疑行為」といいます。)。一方で、管理上の措置を講じない行為(22条1項)は確約手続の対象行為ではありません。
違反被疑行為は、継続中のものだけでなく、既往のもの(既にやめたもの)も含まれます(26条及び30条)。
ウ 確約手続の通知
内閣総理大臣は、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認める場合、違反被疑行為をしている、または、当該違反被疑行為をした者に対し法定事項を書面により通知をすることができます(26条本文、30条本文)。
・「一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるとき」
この要件は、事業者が行うと考えられる是正措置等が、景表法の一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保するという目的のため必要であると認められるかどうか、という観点から判断するものと考えれます。内閣総理大臣が当該要件の判断するにあたっては、当該事案における措置の方向性(違反要件該当性に係る見込み)、確約手続を利用する意向の有無や事業者が行う予定である是正措置等の内容について検討する必要があることから、確約手続の利用を考える事業者は、これらの事項について執行の担当官と密にやり取りをすることとなるものと考えられます。
なお、継続中の違反被疑行為であっても、既往のものであっても、当該判断は個別事案に応じて行われるものであって、例えば、継続中のものについては当該要件の該当性が認めやすいということはないものと考えられます。
・通知を受ける者
確約手続の対象行為を行い、または、行なった者が確約手続の通知を受けます。
なお、自ら行なった行為でない場合であっても、企業組織再編によって確約手続の対象行為を承継しているときには、承継先の事業者が確約手続の通知を受ける主体となります(30条1項1号ロないしハ)。
・措置命令または課徴金納付命令の弁明の機会の付与に係る通知前であること
確約手続の通知は、措置命令または課徴金納付命令の弁明の機会の付与に係る通知を行なった後はすることができません(26条但書及び30条但書)。
確約手続の導入は、「課徴金制度が導入されたことにより事件処理に要する期間が長期化していることもあり、措置件数を増加させることができていない状況」を打開することも一つの目的となっています3。この趣旨からしますと、措置命令または課徴金納付命令の弁明の機会の付与に係る通知を行う時点では、既に執行当局としてはこれらの処分を行うために必要な調査が完了しているのであって、確約手続の対象とする必要はありません。このため、確約手続の通知は、措置命令または課徴金納付命令の弁明の機会の付与に係る通知前に行う必要があるわけです。
なお、Column7のとおり、確約手続に係る都道府県知事の権限を付与するかは政策判断となりますが、いずれにせよ都道府県知事が措置命令を行なった事案においては、「措置命令に係る行政手続法第三十条の規定による通知」をしたこととなるので、確約手続の通知はできないことになります。
・通知することが「できる」
内閣総理大臣は、確約手続の通知をすることが「できる」と定められていることから、違反被疑行為があった場合において、「一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるとき」であっても、確約手続の通知をしないことが可能です。例えば、悪質な不当表示事案においては確約手続ではなく、措置命令を行うという選択をすることも十分あり得るものと想定されます。
・通知する法定事項
通知する事項は、①確約手続の対象となった行為の概要、②違反する疑いのある法令の条項、③是正措置計画等の認定の申請をすることができる旨です(26条各号及び30条各号)。
エ 確約手続の認定申請及び当該申請に対する処分
(ア)確約手続の認定申請
確約手続の通知を受けた者は、是正措置計画等を作成し、通知を受けた日から60日以内に内閣総理大臣に提出して申請をすることがきます(27条1項、31条1項)。是正措置計画等には「是正措置の内容」等の法定記載事項を記載します(27条2項、31条2項)。内閣総理大臣は、是正措置計画等の申請があった場合には、是正措置計画等の内容が十分なものであり、かつ、確実に実施されると見込まれる場合には認定を行い、一方で、その場合でないときには却下しなければなりません(27条3項・6項、31条3項・5項)。
ここでは、是正措置計画等の記載事項である、「是正措置の内容」としてどのようなものが想定されるか取り上げます。「是正措置」とは、「疑いの理由となつた行為及びその影響を是正するために必要な措置」をいい、継続中の違犯被疑行為に係る是正措置計画に記載する事項です4。
まず、確約手続の通知の要件が「一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるとき」であり、是正措置計画の認定要件の一つが「是正措置が疑いの理由となつた行為及びその影響を是正するために十分なものであること」であることから、認定要件を満たす「是正措置」は、違反被疑行為により害された一般消費者の自主的かつ合理的な商品等の選択の確保するため、当該違反被疑行為及び当該違反被疑行為による影響を是正する十分なものである必要があることがわかります。このため、「是正措置の内容」は個別具体的な事案において上記の観点から検討されるべき事項ですが、例えば、下記の内容が考えられます。
【「是正措置の内容」の例示】
① 違反被疑行為をやめる(第三者をして行なっていたものを含む) ② 違反被疑行為をやめることを取締役会で決議する ③ ②を従業員に周知する ④ 違反被疑行為が第三者をして実施していた場合には当該第三者に②を周知する ⑤ 一般消費者に対して違反被疑行為をしていたこと及びやめることを周知する ⑥ 今後3年間、同様の違反被疑行為を行わないこと ⑦ 違反被疑行為が発生した原因を究明し、当該原因を改善する広告表示作成・審査フローを構築して運用すること ⑧ 役職員に⑦及び景品表示法の行動指針を周知すること ⑨ 景品表示法に違反する可能性がある行為について外部専門家への通報窓口を設け、役職員に周知すること ⑩ 今後3年間、役職員に対する景品表示法の研修を定期的に行う ⑪ 法務担当者等による⑥から⑩の監査 ⑫ 一般消費者に対する金銭的回復の措置 ⑬ 消費者政策や団体に対する寄付 ⑭ ①から⑤、⑦から⑨、⑫及び⑬に関して消費者庁に報告をすること ⑮ ⑥⑦⑩に関し、今後3年間、毎年、消費者庁に報告をすること |
「是正措置の内容」として上記⑫一般消費者に対する金銭的回復の措置を講ずることが必要か否かが実務上大きな関心が持たれています。是正措置計画等の認定の効果は、課徴金納付命令を行わないという効果を伴うのであるから(28条、32条)、その利益を享受するのであれば、少なくとも⑫一般消費者に対する金銭的回復の措置を講ずるべきであるという考えが背景にあるものと思われます。
他方で、4条及び5条の違反要件は、いずれも、景品類があったから商品等の購入をしたとか、不当表示により誤認して商品等を購入したといったように違反行為によって契約をしたという因果関係を要件としておらず、因果関係が不明確なものについてまで必ず金銭的回復の措置を求めるのは過剰であるという指摘もあり得ます。
次のように考えるべきでしょう。
上記のとおり、「是正措置」は、違反被疑行為により害された一般消費者の自主的かつ合理的な商品等の選択の確保するため、当該違反被疑行為及び当該違反被疑行為による影響を是正する十分なものである必要があります。この観点から、購入者が特定できる場合であって、金銭的回復の措置がなければ、当該違反被疑行為及び当該違反被疑行為による影響を是正する十分なものといえない場合には、金銭措置は「是正措置の内容」として記載すべきこととなります。他方で、当該事案において、金銭的回復の措置によらずとも、上記の①から⑪などの組み合わせによって当該違反被疑行為及び当該違反被疑行為による影響を是正するのに十分であると認められるという場合には、金銭的回復の措置を「是正措置の内容」に記載する必要はありません。例えば、違反被疑行為をしたのがメーカーであって、違反被疑行為に係る商品の購入者が明らかではないという場合には金銭的回復の措置を行うこと自体が困難であり、こうした事案においては、他の是正措置が十分であると認められる場合には、金銭的回復の措置を「是正措置の内容」としなくても、認定要件を充足するものと考えられます。
次に、金銭的回復の措置を「是正措置の内容」とする必要がある場合において、どの程度の金銭的回復をするのか、という点も論点となり得ます。この点、課徴金額を減額する、返金措置が「購入額に百分の三を乗じて得た額以上の金銭」をもって行うものであることから、購入額の3%を返金すれば足りるという考え方はあり得ます。他方で、不当表示の内容や商品等の内容から、当該不当表示がなかりせば当該商品等を購入しなかったという因果関係が容易に認定できる場合であって、当該商品等を購入した一般消費者の損害を回復することが違反被疑行為の影響を是正するために十分なものであると評価できるとき、購入額全額を回復しなければ「その影響を是正するために十分なものであること」という認定要件を充足しないという場合もあり得るものと考えられます。いずれにせよ、個別具体的な事案に応じて検討する必要があります。
(イ)確約手続の認定に対する処分(認定・却下・変更認定・変更却下)
・確約手続の認定に対する処分(認定・却下・変更認定・変更却下)
内閣総理大臣は、是正措置計画等が次の要件をいずれも充足する場合には、当該是正措置計画等を認定します(27条3項、31条3項)。
①是正措置が疑いの理由となった行為及びその影響を是正するために十分なものであること。 ②是正措置が確実に実施されると見込まれるものであること。 |
他方で、内閣総理大臣は、当該要件のいずれかに適合しないと認める場合には、当該申請を却下しなければなりません(27条6項、31条6項)。
また、事業者は、認定に係る是正措置計画等を変更しようとする場合、内閣総理大臣の認定を受けなければなりません(27条8項、31条7項)。この場合、上記の認定要件の規定等が準用され、認定要件を充足する場合には変更認定が行われ、当該要件のいずれかに適合しないと認める場合には当該申請を却下しなければなりません(27条9項、31条8項)。
上記の是正措置計画等の認定及び却下並びに是正措置計画等の変更認定及び却下は、文書で行われます。また、送達が効力要件となっています(27条3項ないし6項及び9項、31条3項、4項及び8項)。
・是正措置計画等認定前のパブリックコメント
申請された是正措置計画等が認定要件に適合するか否かの判断に当たり、広く第三者の意見を参考にする必要があると認める場合には、第三者からの意見を募集することもあり得るものと考えられます(「確約手続に関する対応方針」(平成30年9月26日公正取引委員会)7参照)。
・是正措置計画等の認定の公表
景品表示法検討会報告書では、独占禁止法の運用(「確約手続に関する対応方針」)を参考にしつつ、ガイドラインで景品表示法における確約手続の運用を定めるとしています。独占禁止法の確約手続は、認定された確約計画の公表を実施しています(同方針11)。このため、景表法においても、是正措置計画等の認定がされた場合には、公表されることが想定されます。
(4)是正措置計画等認定の効果
ア 概要
是正措置計画等の認定があった場合、認定の対象となった違反被疑行為について、7条1項(措置命令)及び8条1項(課徴金納付命令)の規定は適用されません(28条本文、32条本文)。すなわち、違反被疑行為に対して措置命令及び課徴金納付命令がされません。ただし、是正措置計画等の認定取消処分があった場合は、翻って、7条1項及び8条1項の規定が適用されます(28条但書、29条1項、32条但書・33条1項)。
イ 是正措置計画等認定の効果の範囲
是正措置計画等認定の効果は「認定…をした場合における当該認定に係る疑いの理由となつた行為」に及ぶものです。それ以外の法執行に影響を及ぼすものではありません。
例えば、内閣総理大臣が是正措置計画等の認定をした場合、当該違反被疑行為に関し、都道府県知事が措置命令を行うことはできません。なお、消費者庁長官が是正措置計画等の認定をした場合、併せて当該違反被疑行為に関し、行政指導(行政手続法2条6項)を行うかも検討事項となりますが、既に違反被疑行為であると通知している以上(26条及び30条)、そのような指導を行う必要に乏しく実務上は行われないものと想定されます。
一方で、是正措置計画等認定がされた場合において、⑴認定を受けた事業者に対して管理上の措置を講じていないとき、消費者庁長官が当該事業者に対して指導及び助言を行うこと(23条)、⑵当該事業者が加盟する公正競争規約に基づき公正取引協議会が規約上の措置(警告・違約金等)を講ずること、⑶一般消費者や特定適格消費者団体が金銭賠償を求めること、⑷不当表示の直罰(48条)を適用すること5などは制限されません。
●Column8:是正措置計画等の認定と薬機法の課徴金納付命令の関係 |
●Column9:是正措置計画等に関する争訟方法(訴訟形式・訴訟要件を中心に)
2 是正措置計画等が認定された場合に第三者が争う方法
3 是正措置計画等が却下の場合に訴えの利益があるか |
ウ 認定取消の処分
是正措置計画等の認定があった場合であっても、その認定取消があった場合には、翻って、7条1項(措置命令)及び8条1項の規定が適用されます(28条但書、29条1項、32条但書・33条1項)。
内閣総理大臣は、事業者が課徴金対象行為をやめた日から5年を経過した場合には、課徴金納付命令をすることができません。ただし、是正措置計画等の認定取消をした時点が、上記の課徴金対象行為をやめた日から5年を満了する日の2年前の日後であった場合には、違反被疑行為に対する課徴金納付命令は12条7項の規定に拘らず、当該認定取消しの日から2年間においてもすることができます(29条3項、32条3項)。
なお、内閣総理大臣は、認定した是正措置計画等が実施されているか判断するために、立入検査等を行うことができます(25条)。
(5)確約手続が執行実務に与える影響等
ア 確約手続が執行実務に与える影響
確約手続導入により、従来措置命令と課徴金納付命令が行われていたものの一部は確約手続が利用されることにより、景表法調査の負担が軽減され、その他の対応すべき事件にリソースを割くことができるという効用が生まれるものと想定されます6。
他方で、従前措置命令ではなく指導(行政手続法2条6項)として処理されていた事案の一部が、確約手続によって処理される事案も出てくるものと思われます。すなわち、従前行政指導とされていた事案の中には、違反行為の認定は可能であるが、再発防止策などを的確に実施し、一般消費者の自主的かつ合理的な選択の確保という観点から十分な措置を行なっている場合において、措置命令をする必要性がないとして指導を行うということがあります。今後は、こうした事案では指導ではなく、確約手続を利用させるようになるでしょう。
●Column10:景品規制と確約手続 |
イ 事業者がどのように確約手続を使うか
景表法被疑事件の調査を受けた事業者が、確約手続を利用するか否かは、個別具体的な事案に応じて検討されるべきですが、いくつかの考慮要素を解説します。
まず、違反要件の該当性を十分に争える事案なのであれば、確約手続を利用する必要性は乏しいものと考えられます。他方で違反要件が争い難い場合には、措置命令や(要件を満たす場合には)課徴金納付命令を受けることによるダメージ、是正措置計画等の「是正措置の内容」における金銭的回復の措置の要否、実現可能な是正措置計画等の「是正措置の内容」が認定要件を充足し得るものか、是正措置計画等が認定されてその公表があった場合における特定適格消費者団体に対する対応その他の事情を総合的に判断して、確約手続を利用するか決することになるでしょう。
次回連載⑤は、適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請について解説します。
【連載⑤適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請】はこちら
- 法制執務において用いられる用語であり、改正法案の案文を起案する際に参考とする法律の先例を指します。
- 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成28年法律108号)1条関係
- 景品表示法検討会「報告書」12頁
- 他方で、既往の違犯被疑行為に係る影響是正措置計画に記載する「影響是正措置」とは、「疑いの理由となつた行為による影響を是正するために必要な措置」であって、「是正措置」が「影響是正措置」を包含する関係にあります。
- もちろん、内閣総理大臣から是正措置計画等の認定を受けた事業者に対して、内閣総理大臣が不当表示の直罰(48条)に係る刑事告発をすることは考え難いものと考えられます。
- 独禁法と比較すると、景表法被疑事件は、違反要件認定のための客観証拠も多い上、証拠数も必ずしも多いわけではないのが通常であるため、独禁法ほどの調査負担軽減が感じられるわけではないでしょう。
- 消費者庁「令和3年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」6頁
- 令和5年3月30日付大阪府による株式会社産業経済新聞社に対する措置命令
- 「最近の景品表示法違反事件をめぐって」(〔片桐一幸消費者庁審議官(当時)発言〕(公正取引853号5頁))。
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