【I&S インサイト】[連載①]令和5年景品表示法(景表法)改正法案の解説と実務的課題(概要編)
DATE 2023.03.28
執筆者:染谷隆明
【連載①概要編】
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題
〜確約手続・直罰導入後の景表法の展望〜
Ⅰ 令和5年景表法改正法案の概要
政府は、令和5年(2023年)2月28日、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律134号。以下「景表法」といいます。)を改正する、不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案(211回国会閣法27号。以下「令和5年景表法改正法案」といいます。)を国会に提出する閣議決定をしました。
令和5年景表法改正法案の概要、法律案・理由や新旧対照条文は下記のとおりです。
【211回国会(常会)提出法案】
令和5年景表法改正法案は、「最近における商品又は役務の取引に関する表示をめぐる状況に鑑み、一般消費者の利益の一層の保護を図るため、前に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対して課す課徴金の額を加算する措置、不当景品類及び不当表示防止法第五条の規定等に違反する疑いのある事業者が疑いの理由となった行為に係る是正措置計画の認定を受けたときは当該行為について措置命令等の規定を適用しないこととする措置等を講ずる必要がある。」として、国会に提出されたものです。
その内容は上記の概要のとおり法執行に関連するものに限られますが、確約手続や直罰規定の導入など従来の法執行実務に影響を与える大きな改正となります。
そこで、本連載では、令和5年景表法改正法案の内容、解釈上の問題及び実務上の課題について解説し、今後の国会の審議及び景表法に携わる方への一つの参考を提供できればと考えています。具体的には、令和5年景表法改正法案の検討経過を説明し(後記Ⅱ)、令和5年景表法改正法案の解説(後記Ⅲ)を行なった上で、最後にまとめに入りたいと思います(後記Ⅳ)。
本連載は、実務の参考となるべく、実務上・理論上問題となる論点を多く取り上げています。多くの方にお読みいただければ幸いです。なお、本連載を参考に記事を記載する場合には必ず引用いただくようお願いいたします。
令和5年景品表示法改正法案の解説と実務的課題 目次 〜【連載①概要】〜
Ⅰ 令和5年景表法改正法案の概要
3 課徴金額の算定規定の拡充(8条4項・5項・6項関係)
4 課徴金制度における返金措置の弾力化(10条1項関係) 5 確約手続の導入(26条〜33条関係) 6 適格消費者団体による合理的根拠資料の開示要請規定の導入(35条関係) 8 罰則規定の拡充(48条関係) Ⅳ 最後に |
Ⅱ 令和5年景表法改正法案の検討経過
景表法の直前の改正は、課徴金制度が導入された不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律(平成26年法律134号。以下「平成26年11月改正法」といいます。)です。平成26年11月改正法の附則4条には、下記のとおり検討規定が置かれていました。
○平成26年11月改正法附則
(検討) |
また、平成26年11月改正法は、審議がされた衆議院・参議院それぞれの消費者問題に関する特別委員会において下記のとおり附帯決議がなされており、施行状況を評価した上で見直しを行うことが政府に求められていました。
○衆・参消費者問題に関する特別委員会附帯決議1号 一 不当表示の抑止に係る実効性の観点から、本法の施行状況について不断の評価を行い、課徴金額の算定率や規模基準の設定等について、必要な見直しを行うこと。 |
さらに、平成26年11月改正法の施行後、コロナ禍の影響もあり、下図「インターネット広告市場の推移」のとおり、通信販売やインターネット広告市場が拡大したことに伴い、インターネットを利用した広告の適正化に対する取組みなども課題として指摘されてきました1。
【図:インターネット広告市場の推移】2
こうした状況を踏まえ、消費者庁は、平成26年11月改正法施行から約6年経過した令和4年に、景品表示法の検討事項を検討すべく、「景品表示法検討会」を立ち上げ、同年12月までに10回の検討会を開催し、本年1月に報告書を公表しました3。
今回、閣議決定された令和5年景表法改正法案は、概ね当該報告書に沿って立案されたものです。以下では、令和5年景表法改正法案の解説を行います。景表法の条文は特段の断りがない限り、令和5年景表法改正法案の溶け込み後のものを用います。
Ⅲ 令和5年景表法改正法案の解説
令和5年景表法改正法案の内容は、大きく分けて、
① 事業者の自主的な取組の促進、
② 違反行為に対する抑止力の強化、
③ 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備
等に分類されますが、いずれも法執行に関する改正であるため、上記の整理にかかわらず、以下では条文の順に沿って改正事項の解説をしていきます。
1 条ずれの発生
令和5年景表法改正案によって、景表法に条文のずれ(法政執務では「条ずれ」と呼ばれています。)が発生します。具体的には、①送達規定の整備により従前存在した課徴金制度に限られていた送達規定が削除されたこと、②確約手続、適格消費者団体の資料提出要請等、外国執行当局への情報提供、送達、直罰のそれぞれの規定が新設されたことから、景表法の条文にずれが発生します。
例えば、
・管理上の措置の規定が景表法26条〜28条から22条〜24条へ移動
・報告徴収等の規定が景表法29条から25条へ移動
・適格消費者団体の差止請求権等が景表法30条から34条へ移動
・公正競争規約の規定が景表法31条〜32条から36条〜37条へ移動
といった具合です。令和5年景表法改正法案によって、景表法は全41条から増加し、全52条から成る法律となります。
●Column1:枝番号方式か、条ずれ方式か? 既存の法律の改正を行なって新規条文を追加する場合、法案立案担当者としては、枝番号方式(例えば「1条の2」といったもの)か、枝番号を使わず新規条文が追加した分既存条文を動かすいわゆる条ずれ方式を採用するか検討することになります。 枝番号方式は、原則として、既存の条を繰り下げることが技術的にいたずらに複雑となる場合や、繰り下げによる条名の変更によってその条を引用している他の規定についてさらに改正(いわゆる跳ね改正)を要することとなるなど多くの形式的な改正をしなければならない場合に用いられる方式です4。 最終的にいずれの方式を採るかは、その時々の内閣法制局の意向も反映されるところですが、一般に条ずれ方式の方が国民にわかりやすいことから、全50条程度に収まるような改正である場合には、条ずれ方式が採用されることが多いように思われます。消費者庁所管法令では、まさに平成26年11月改正法は、条ずれ方式を採用しました。他方で、条文数が多い特定商取引に関する法律(昭和51年法律57号)では、平成28年改正法5や令和3年改正法では枝番方式が採用されています。 令和5年景表法改正法案は、その条文数は52条であり、また、景表法を引用する法令も多くなく跳ね改正が乏しいことから、条ずれ方式を採用したものだと考えられます。 |
2 措置命令の送達手続の整備(7条3項)
行政処分の相手方へ通知し到達することは、行政処分の効力発生要件であると考えられ(なお、民法(明治29年法律89号)97条1項も参照)6、行政処分たる措置命令もその効力発生のためには命令名宛人に到達する必要があります。しかし、景表法は課徴金納付命令、督促命令及び執行命令など課徴金制度における行政処分については送達規定を整備していましたが(景表法17条2項、景表法施行規則18条及び20条2項)、措置命令については、送達規定を置いていませんでした。
措置命令については送達規定が置かれていないことから、一般の意思表示に規定に基づき通知するほかありませんでした(民法97条及び98条)。そこで、令和5年景表法改正案は、措置命令の送達手続の整備を行います(7条3項。43条から45条も参照)。送達の趣旨は、①名宛人に文書の内容を知らせること、②いかなる文書がいつどこで誰に送達されたかを明確にして後日の紛争を防止する点に趣旨があります。このため、当該送達規定の整備により、措置命令の確実な法執行と名宛人の防御の機会が確保されることが期待されます。
なお、令和5年景表法改正案は、確約計画認定処分を含めた消費者庁が景表法に基づき行う行政処分を新設したことから、送達すべき書類については内閣府令で定めることとし、民事訴訟法の送達規定の準用規定、公示送達や電子処理組織の使用に関する一般的定めも新設しています(42から45条まで)。
次回連載②は、課徴金額の算定規定の拡充の新設について解説します。
【連載②課徴金額の算定規定の拡充】はこちら
- 消費者庁景品表示法検討会「報告書」1頁
- 消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」4、6〜8頁
- https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004/
- 法制執務研究会編「ワークブック法制執務第2版」(2018年、ぎょうせい)483頁
- 特定商取引に関する法律の一部を改正する法律(平成28年法律60号)
- 最判昭和29年8月24日刑集8巻8号1372頁や最判昭和57年7月15日民集36巻6号69頁等参照
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