【I&S インサイト】ついに制定へ、ステマ規制 ―消費者庁の告示月内公表へ―
DATE 2023.03.17
執筆者:福島紘子
現在、消費者庁はステルスマーケティング(以下「ステマ」)に関する告示案(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」案。以下、現時点では案文段階ではありますが「ステマ告示」といいます。)の今月内の確定・公表に向け、準備を進めています。
この告示により、これまで行われてきたステマの多くが、景品表示法上違法な不当表示となり(景表法5条3号)、措置命令(景表法7条1項)による企業名公表の対象となります。ステマ告示が施行され実際に当局による規制が始まるのは、これまでの告示の施行のペースをみると夏から秋になりそうですが、マーケティング・広告関係の皆さんはそれまで対応に追われることになると考えられます。
そこで今回の記事では、このたびのステマ告示が広告規制に与えるインパクトについて簡単に整理した上で、いわゆるステマのうちで何がどのようにステマ告示のステマと判断され規制されるのかを解説し、今後皆さんがステマ告示への対応をされる際の参考になればと思います。
<目次> |
ステマ告示が広告規制に与えるインパクトは、一言で言いますと、この告示により、広告の内容だけではなく、広告の方法にまで景品表示法上の規制が及ぶことになる、という点にあります。
(1)ステマの定義
そもそもステマ告示で新たに規制されることになったステマとは何か。ステマ告示では以下のように定義されています。
一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示 |
この定義をもう少しわかりやすく言い換えると、一般消費者にわからないように「広告主が自らの広告であることを隠したまま広告」を出すこと1、ということです。
(2)ステマはなぜ規制されるのか
ア.ステマの実態
ステマは広告である。
このことは皆さんにとっては常識かもしれません。しかし通常の消費者にとっては、必ずしもそうではないようです。ステマの一形態でもあるアフィリエイト広告に関する報告書では2、「商品・サービスの体験談・口コミ・レビューをインターネット上で紹介する個人のブログや商品紹介の記事について、どう思いますか。」という質問に対し、9割近くの人が商品・サービスを購入する上で「大変参考になる」「ある程度参考になる」と回答している一方、そのような紹介記事が、実は企業から対価をもらって行われていた場合は、7割近くの消費者が「あまり参考にならない」「ほとんど参考にならない」と回答したことが明らかになっています。つまり消費者の多くは、商品・サービスの紹介記事が広告主から対価を支払われてのものでなければ、それらの記事を信頼して商品・サービスの購入を検討することがある、のであり、逆にいえば、そうした記事を信頼するのは投稿者が対価をもらっていないからだ、ともいえます。
<「個人のブログや商品紹介の記事が、実は企業からお金をもらって、書かれたものである場合、どう思いますか。」という質問に対する回答
(「アフィリエイト広告等に関する検討会報告書」p.43)>
こうした消費者の意識は、マーケティング・広告関係者にとっては、商品・サービスの紹介記事がたとえ対価を支払って投稿を依頼したものであっても依頼した事実を隠す、すなわちステマを誘発するインセンティブともなりそうです。実際、ある広告代理店関係者によれば、ステスの売上に対する効果は高く、広告である旨を明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は売上が増加するという感触を得ている、と明かしています3。
イ.景品表示法から見るステマの問題点
このように、消費者にとって商品・サービスの購入へとつながる誘引力の強いステマではありますが、嘘の投稿ならともかく、嘘でもないのになぜ不当表示という扱いになり、違法になるのか、と不思議に思われるかもしれません。この点を解明するためには、景品表示法における不当表示がどのような表示を規制しようとしているのか、という点に立ち戻る必要があります(強調は引用者)。
(不当な表示の禁止) 第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。 一 (引用者略。優良誤認表示) 二 (引用者略。有利誤認表示) 三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの |
不当表示とは、商品・サービスに関する事項について、一般消費者に「誤認されるおそれがある」広告のことです。ここで「誤認」とは、通常の消費者が広告表示から受ける印象と、実際の商品・サービスに大きく落差があり、この落差があるならば買わなかったのに、と当該消費者が思う場合のことをいいます。
広告の内容に嘘がある場合が典型であり、分かりやすいと思います。実際、これまで景品表示法が不当表示として規制してきたのがその類型です。
しかし、たとえ内容に虚偽・誇張がなくても、実際には広告であるにもかかわらず広告であることを隠すこともまた、一般消費者の「誤認」を生じさせるのではないでしょうか。何故なら、イで紹介したとおり、消費者の多くが商品・サービスの紹介記事を信頼するのは、それが広告主から対価をもらっていない、すなわち広告ではないと思っていたからであり、広告なのであれば記事の内容を信頼して買おうとは思わなかっただろうと考えられるためです。消費者庁のステマ報告書にも、ステマとは「実際は、事業者の表示であるにもかかわらず、一般消費者が表示全体から広告であるとは認識しないという点で、一般消費者に誤認を与える行為であるといえる。」と明記がされています4。
では、このような問題意識から、消費者庁が実際にどのような広告を「ステマ」として規制しようとしているのかを見てみましょう。
(1)判断のツーステップ
関係者の皆さんの中には、ステマ告示により、インフルエンサーなり誰かが投稿した貴社の商品・サービスに関する記事は、なんでも「広告」なり「PR」なりと明記しなければならなくなったのではないか、と思われている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そういうわけではありません。ステマ告示を注意深く見てみましょう。これによると、順番に以下の二つの条件に該当する表示が、不当表示の「ステマ」と判断されることが明らかにされています。
① 広告主が表示したといえること ② ①の場合、広告主の表示であることが不明瞭なこと |
つまり、そもそも①でなければ、「広告」なり「PR」なりを明記することが対策の一つであるところの②の対応を行わなくとも、ステマとみなされず、規制もされないことになります。
では、どういう場合に①の「広告主が表示したといえること」とされないかということで、ステマ告示の消費者庁による運用のガイドラインが示された「運用基準」(以下「運用基準」)」を見ましても(なお、②を検討される際にも運用基準をご参照下さい)、一読して何が①に該当し、何が該当しないのかを峻別するのは、なかなか困難かとも思われます。
(2)ファーストステップの決め手
どのような場合に広告主による表示とされないかについて、実際に運用基準の規定を見てみましょう(「運用基準」第2の2(1)ア。強調は引用者)。
第三者と事業者との間で表示について直接又は間接的に一切の情報のやり取りが行われていないか、事業者から第三者に対し、表示内容に関する依頼や指示があるか、当該表示に係る取引の前後において、事業者が第三者に対価を既に提供しているか、過去に対価を提供した関係性がどの程度続いていたのか、あるいは今後提供することが決まっているか、今後対価を提供する関係性がどの程度続くのかなど、事業者と第三者との間に当該事業者が当該第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められないか否かによって判断する。また、「事業者と第三者との間に当該事業者が当該第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められないか否か」の判断に当たっては、表示の対象となった商品又は役務の特性等(特定の季節のみに販売数量が増える商品であるか)からも判断する。 |
非常に長い一文ですが、要は、太字下線部分が認められれば、広告主による表示であると判断されることになり、太字下線部分を認定する際の判断要素として、(a)広告主と第三者との間の情報のやり取り、(b)内容に関する依頼・指示、(c)投稿に対する対価の提供、(d)商品・サービスの特性、等が総合的に検討される、ということになります。
重要な点は、第三者の「自主的な意思による」商品・サービス紹介であるか否かは、広告主が当該商品・サービスを紹介させるつもりがあったかなかったか、または第三者が当該商品・サービスを紹介するつもりがあったかなかったか、という、広告主と第三者それぞれの意図で決まるのではなく、広告主と第三者の関係性を最重要考慮要素として客観的に決まるということです。
例えば以下の事例を見てみましょう。
<事例> ランキングサイトの口コミキャンペーンを行う際、「よろしくお願いします」といって投稿を明示的に依頼しなかった場合 |
上の事例のAとBとでは、広告主と投稿者の関係性が大きく異なりますので、投稿者の「自主的な意思による」かという判断もまた異なってくると考えられます。
このことは、運用基準に「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」として例示されている以下のようなケースでも(「運用基準」第2の2(1)ア)、「広告主と第三者の関係性」から判断すると、場合によっては「第三者の自主的な意思による表示」と認められず、広告主による表示とみなされる可能性があることを示しているようにも思われます。
(前略) (オ)第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づきSNS等に表示を行う場合。 (中略) (キ)事業者が不特定の第三者に対して、試供品等の配布を行った結果、これらを受けた当該不特定の第三者が自主的な意思に基づき表示を行う場合。 (後略) |
例えば(オ)の場合でも、応募者の中から、広告主が日ごろの好意的な投稿にかんがみ、X氏をあえて当選させた場合や、(キ)の場合、「不特定の第三者」といっても、これまで少なくとも一回は投稿を行ったユーザを招待したイベントで試供品を配布場合などは、必ずしも「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」と判断されない場合がありそうです。
以上のように、ステマ告示とその運用基準は、ステマが不当表示になり措置命令の対象となるという重大な帰結に比べますと、少なくとも現時点では必ずしも明快な基準とはいえないそうです。
また、ステマ告示が施行される前の広告につきましても、ステマ告示施行後に出回っているものは規制の対象となるため、規制の網は非常に広いという点で注意が必要であると考えます。
- ステルスマーケティングに関する検討会「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」(令和4年12月)、p.25。
- アフィリエイト広告等に関する検討会「アフィリエイト広告等に関する検討会報告書」(令和4年2月)、pp.42-45。
- テルスマーケティングに関する検討会事務局「ステルスマーケティングに関する実態調査」、p21。
- 「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」p.25。
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